ビジネスとして考える映画製作(2):製作リスクを取れるか?
『朝日新聞』【西部】夕刊(2015年10月24日)は、現在公開中の映画「ベトナムの風に吹かれて」大森一樹監督のインタビュー記事を掲載している。以下の文書は本ブログですでに紹介した(11月1日)。
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現在日本の映画産業について、「短期間で観客動員数を稼ぐ上映スタイルが多い現状を「見せ逃げ」「売り逃げ」とチクリ。「自分自身がシネコンに行くと、見たい映画がない。劇場から劇場へと受け継がれていくような、こういう映画があったらいいな、という思いを込めた」とも話す。
「映画は見に行って、予期せぬ力をもらって帰るもの。そんな本来の役割をもう一度思い出してほしい」
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高齢化社会が進行している日本で、また他方、映画観客が減少している日本で、映画観客を動員するための手段として、60歳以上のシニア割引料金、また夫婦50歳以上割引き料金などが多数の映画館で適用されている。しかし高齢者が本当に見たい映画があるか?大森監督の上記の指摘は、このような問題提起である。
また大手の映画製作配給についても、リスク最少の姿勢が上記の「見せ逃げ」「売り逃げ」の言葉で表現されている。この「逃げ」とは、製作段階において「リスクから逃げ」る経営方針という意味も含まれている。現在の日本で配給される映画は、米国ハリウッドの定番の大作、小説やマンガやアニメがヒットしている。過去にヒットした映画のリメイク。これらは、いずれも新鮮みがあるとは思われない。他方、有名女優の大胆演技(=ヌードシーン)といった話題が製作側から期待される。
また上記の「見せ逃げ」「売り逃げ」の言葉通り、大量宣伝でヒットの兆しがあればよいが、そうでなければ直ちに上映打ち切り。次の作品の上映で切り替える。映画製作もビジネスだから当然と言えるが、そこには文化芸術という観点が希薄になっているようにも感じる。
こういった大手映画製作配給会社は、かつての「マス=マーケティング」の感覚に似ている。簡単に言えば、大量生産・大量販売のための大量宣伝の手法である。
映画「ベトナムの風に吹かれて」は、60歳代以上の人々に最も共感を得るものである。観客ターゲットは、まさにそこである。もちろん若い人々にも、自分の両親や祖父母の問題として、また将来の自分自身の問題として考える材料を豊富に提供しているが、中核となるターゲットは中高年齢の人々である。
こういう世代に「マス=マーケティング」は通用しないのではないか?本映画は、当初は目立たないが、時間をかけて次第に観客からの支持を獲得することになるのではないか。また大森監督の「予期せぬ力をもらって帰る」という表現も本映画の特徴である。それが「口コミ」の原動力になる。私自身で言えば、個人的な贔屓もあるが、何度見ても魅力的で面白い。
いずれにせよ、大森一樹監督の上記の指摘は、まさに彼自身の本作品に対する自信と自負に裏付けられている。
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