村上春樹の新刊『ラオスにいったい何があるというんですか?』(3)
「これが文学か・・・」。「さすがにノーベル賞候補・・・」。「こういう表現をするのか・・・」。同書のラオスの章を読んだ最初の感想である。
小説となれば、その物語の展開に主な関心が向くが、同書のような紀行文となれば、私を含む読者も同じ風景を見たり、同じ体験を共有していることになる。そうなれば、著者の感性や表現力が顕著に実感することができる。
メコン川の持つ深く神秘的な、そして薄く暗く寡黙なたたずまいは、湿った薄いヴェールのように、僕らの上に終始垂れ込めている。そこには「不穏な」「得体の知れない」とも表現したくなるような気分さえ感じられる。・・・・(158頁)。
このような文章表現こそが小説家であり、また村上春樹ならではの特徴であろう。これに対して論文や報告書の文章は、できるだけ修飾語を省略して事実を客観的に記述することが理想とされる。この相違を実感できた。こういった日本語に接すると、日本語の奥深さをを痛感する。
なお、メコン川から村上春樹は神秘的な暗いイメージを抱いたようであるが、これは、やはりラオスを舞台にした松本清張の小説『象の白い脚』の雰囲気にも共通しているように思われる。このような印象を私はメコン川やラオスに持ったことはないが、そう言われてみれば、そう感じないこともない・・・。著者の村上春樹氏に「なぜ、そのように感じたか」を質問してみたくなる部分である。改めてラオス訪問時に私自身でメコン川を見直して考えてみたいと思う。
「村上春樹のラオスの本」が出版されたとなると、日本におけるラオスの注目度は格段に向上するであろう。また、それを期待したい。
なお、村上春樹氏のお父様は、私の出身の甲陽学院中学・高等学校の国語の先生ということである。私は初めて聞いたが、そうなると、ますます「ノーベル賞受賞」を期待したくなってくる。
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