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2014年10月15日 (水)

書評:メコン地域開発とASEAN共同体(5)

まず、本書におけるラオスの「オランダ病」について検討する。本書のラオスの記述は、次の第5章・第6章である。

第5章 内陸国の制約を越えて――ラオスの持続可能な発展を考える――
・執筆者:小山雅久・立命館大学国際関係学部教授

小山氏は「オランダ病」について、ラオス計画投資省傘下の国家経済研究所のマクロ経済調査担当のSthabandith(サバンデイス)氏の次のようなコメントを紹介している(106頁)。

「・・・ダラライゼーションを食い止めるために、意図してキップ需要を高めようとしているように思える。・・・政府としては外国為替市場への介入を否定的に考えている。ラオスにおいては、いまのところオランダ病の心配はないとみている」。

第6章 ASEAN・Divideの克服――ラオスからの展望――
・執筆者:プーペット=キョピイラヴォン(Phouphet Kyophilavong)・ラオス国立大学経済経営学部准教授

プーペット氏は、次のように指摘し、上記のサバンディス氏の見解よりも「オランダ病」に関してやや悲観的である(129頁)。

「・・・我々は実質為替レートの上昇と労働生産性の低下の面から、オランダ病症候群を検出しよう。・・・ラオス政府が、・・・適切なマクロ経済管理戦略を用いないならば、ラオスは長期的にオランダ病の負の影響に苦しむということである」。

サンバディス氏は、外国為替市場の諸要因の動向によって現在の「キープ高」を説明しており、それはダラライゼーションの防止という意図があるとみなしている。これは、外国為替市場の「操作」によって「オランダ病」は簡単に回復できるから、その心配はないと楽観的に判断しているように思われる。

しかし「オランダ病」の本質は、単なる外国為替市場で通貨高が発生しているという問題ではなく、それによって国内における製造業の国際競争力が減退し、製造業の発展が阻害されるということである。この意味で、プーペット氏が指摘する「労働生産性の低下」という観点が重要なのである。

オランダ病の診断をする場合、サンバディス氏のように金融・為替市場からの観点だけでなく、プーペット氏のような生産市場からの観点が不可欠である。

たとえば日本は長く「円高」に苦しんだが、その間、身を切るような「コスト削減」によって国際競争力を維持してきた。また海外進出(=外国直接投資)によって円高を克服しようとしてきた。このような生産現場における努力もしくは苦労がラオスには欠けているのではないか。もしそうであれば、ラオスの「キープ高」政策が、たとえ「キープ安」政策に転換したとしても、ラオス経済の将来は不透明である。

以上、第5章と第6章はオランダ病に関する診断が異なっているのだが、それは本書の統一性の欠如というよりも、そういった問題に関する読者の関心や理解を高める効果をもっていると私は評価している。

なお私事であるが、プーペット氏のビエンチャンでの結婚式に私は出席する機会があった。もう10年近い前だと思う。本書で同氏の論文を読んで、彼の自国ラオスに対する熱い愛情と、同氏の研究者としての立派な成長を感じることができた。

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