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2014年5月16日 (金)

南シナ海におけるベトナム中国の領土紛争(1):日本に与える影響

南シナ海における中国の石油採掘施設の建設を契機にして、ベトナム国内で中国に対する抗議運動が高揚・激化している。報道によれば、死傷者が出ている。

中国の工場のみならず、おそらく同じ「漢字表記」という軽率な理由で、台湾・韓国そして日本の工場までも襲撃された。このようなベトナムと中国の対立が、日本そしてベトナムにどのような影響を及ぼすのであろうか。また、その対応をどう考えれば良いか。私見では、以下のような論点がありうる。

(1)ベトナムに中国から生産移転・分散させる日系企業
 
 
 

中国における人件費の高騰や「反日」政治情勢を懸念して、生産を中国から近隣のベトナムに移転する日系企業がある。当面の原材料は中国からベトナムに陸路・海路で運ぶ。この場合、中長期的に原材料供給が中断する可能性もある。さらに技術移転・技術指導のためにベトナムに来ている中国人の技術者や熟練工に対して、反発・反感をもつベトナム人従業員も出てくるであろう。

この結果、中国からベトナムという日系企業の生産移転の動向が、たとえば親中的なカンボジアに変化するかもしれない。他方、賢明な日系企業は「中国色」を隠してベトナム進出する必要があると思われる。

(2)日系の観光旅行会社にチャンス到来

ベトナム観光業は、中国人に依存している。ベトナム北部では格安の外国旅行として陸路でハーロン湾観光などに中国人が訪れていた。最近ではダナンに1日に数便の中国からの直行便が観光客を運んでいる。今後、中国人観光客は激減するであろうから、ベトナム観光業にとっては大きな損害が生じる。

この結果、やはり頼りになるのは日本人観光客という認識がベトナムに拡大する。日本に対する観光促進の施策が期待される。もちろん欧米人に対する観光促進も強化し、これらの対応で中国人観光客の減少を補完できるかどうかがベトナム観光業の課題である。なお韓国人観光客が、どのように今回の「ベトナム中国紛争」に反応するか。これにも注目である。いずれにせよ日系の観光旅行会社は、中国人観光客が減少してチャンス到来である。

(3)日系企業の懸念と期待

政治的にベトナムと中国は対立しているが、 ベトナムの最大の輸入相手国は中国である。 中国からの完成品・部品原材料・生産設備の輸入がなければ、当然、ベトナムの日系企業の中では操業が困難になる場合も出てくる。

日系企業に対する直接的な暴動は鎮静化するであろうが、中長期的に見て中国からの輸入品の提供がストップするという問題が日系企業に発生する懸念がある。

他方、これまで取引していた中国製品から日本製品にシフトを決意するベトナム企業の増加が期待される。日本製品は中国製品よりも品質が高いことをベトナム企業は理解していたが、当面の価格が高いのでベトナムで売れないと判断してきた。中長期的に高品質の日本製品が「お買い得」だと説得しても、短期的な観点から安価な中国製品をベトナム企業の多数が選択してきた。この判断が変化するかもしれない。

ベトナム人消費者が中国製品を忌避して、少々値段が高くても日本製品を購入するとなれば、日本企業には大きな商機が到来する。もちろん日本製品と言っても部分的に中国製部品などが使用されていることも多々あるが、あくまでも日本企業が生産した日本製品としてベトナムで販売すればよい。

(4)アセアン経済共同体(AEC)の進展:日本との関係深化

2015年から「アセアン経済共同体(AEC)」が発足する。AECによってアセアン諸国は「1つの市場、1つの生産基地」になる。それだからこそ在外のベトナム大使館や総領事館には、ベトナム国旗と併置されて「アセアン旗」が掲揚されている。中国は、このAECに関する認識が決定的に不足している。

アセアン10カ国は首脳会議や閣僚会議を合計すれば数百回、さらに小さな会議を含めれば、1000回を超えて実施していると私は推測している。単なるセレモニーで実行が伴わないという批判も多々あるが、その交流経験は少なくとも相互の信頼関係を醸成してきたとみなされる。

その発足の前年に今回の「ベトナム中国紛争」が発生した。中国が「中国とベトナム2国間の紛争」であると主張して、この紛争を矮小化しようとしても、客観的に見て「1つの市場、1つの生産基地」を標榜するAECに対する中国の挑戦とみなすことが妥当である。ましてや現在のアセアン事務局長はベトナム人である。

私見では、今回の石油採掘施設の建設は、中国の政治的な判断の失敗である。そのことでアセアン諸国の結束が強化され、AEC実現の促進を加速する。かつて報道されていたアセアン諸国に対する中国の「分断作戦」が水泡に帰したのではないか。このことは日本にとって、アセアン各国との関係深化の好機である。さらにAECに対する日本の支援の強化が期待される。

なお、ベトナムのTPP加盟に伴って、米国に対する繊維製品の輸出関税がベトナムは0%になる。これに対して中国は30%台と言われている。したがって中国企業が対米輸出を期待してベトナムに積極的に進出していた。これも中断することになるであろう。こういった機転の利く中国企業にとって今回の紛争は災難であろう。

強権的・非協調的な政治は、自国の国際的な経済関係に悪影響を与える。中国がそうであるが、日本も自省・自戒するべきことである。

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