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2010年12月 7日 (火)

NHK「ラジオ深夜便・ないとエッセー」の要約:11月19日放送分

 NHK第1放送「ラジオ深夜便」の「ないとエッセー」の統一テーマ「変貌するメコン川流域の国々」第3回はアセアン共同体を知っていますか?」です。

 これまでの2回で、ベトナム・ラオス・カンボジアの国や人々について紹介してきました。今回は、最後のまとめてとして、これら3カ国の今後の経済発展の特徴や、最近、大きな注目を集めるようになったTPPや、日本で余り知られていないアセアン共同体について、お話することにします。

1.ベトナム
 まずベトナムについては、発展途上国から消費国に変貌を遂げようとしています。また製造業では、素材産業や部品製造など、いわゆる「すそ野産業」の育成が推進されようとしています。しかし、日本の産業構造のように多数の中小・中堅企業が、たとえば自動車産業のような組み立てメーカーの大企業を支えるというようなワンセットの「すそ野産業」を作り上げることは、なかなか難しいと私は思っています。それは、今回、紹介するようにアジアの経済統合が進み、たとえば中国やマレーシアやタイから、関税がかからない分だけ今よりも安い原材料や部品が輸入されるからです。また、日本からの精密部品も輸入され続けるでしょう。このように、日本国内だけの「富士山」のような「すそ野産業」ではなく、国際的な広がりをもった国境を超えた「すそ野産業」の育成が、ベトナム製造業の課題と言えるでしょう。

2.ラオス
 ラオスでは、農産物の加工、鉱物資源、水力発電、観光業などが今後の経済発展の中心になるでしょう。製造業については、個々の企業の条件とラオスの条件がうまく合った企業が成功すると思います。これは当然のように思われますが、ラオスにおける製造業の企業発展に、ある定まった特徴がないことを意味しています。隣の国であるタイやベトナムから、より低賃金の生産拠点を求めて進出してきた日系企業が現在もあり、それぞれ成功しています。ただし、日本企業の投資ブームというような大きな動きにはならないようです。

3.カンボジア
 カンボジアでは、ベトナムやタイよりも、より低い人件費を求める労働集約的な企業が次々に進出してくると思われます。それを促進するために、タイとベトナムを結ぶ陸路の物流が整備されています。また鉱物資源の開発や、広大なプランテーションの農産物の栽培が有望な産業です。また来年には証券市場で株式売買が開始されます。カンボジアのみならず、ベトナム、タイ、韓国、日本などの投資家がカンボジア株式に注目するでしょう。
 
 カンボジアのみならず、ラオスでも始まる株式市場は、お金の移動を活発化して、経済活動を刺激する役割を果たします。株式の公開を目指す若い起業家の育成にも貢献するでしょう。このような意味で、途上国における株式市場は長期的な投資に向いており、社会貢献的な性格をもっていると思います。

4.日本メコン地域諸国首脳会議
 今年10月29日からハノイで「アセアンプラス3」の首脳会議が開催されました。これは、アセアン10カ国と日本・中国・韓国の3カ国をプラスした首脳会議です。これと同時に、昨年の東京会議に続いて第2回「日本メコン地域諸国首脳会議」が開催されました。その目的は、メコン川流域国におけるインフラ開発を含めた投資環境整備や産業の発展に対して、日本政府が民間企業と一緒になって協力することです。このように日本政府は、メコン川流域国を重点的に支援しています。

5.アセアン共同体
 その理由は、日本では余り知られていませんが、2015年に「アセアン共同体」の形成が目標とされているからです。アセアン共同体とは、ASEAN諸国が域内で関税を撤廃し、「単一市場・単一生産拠点」が目標とされています。「単一市場」とは関税が0%になって、それぞれの国の間の貿易が自由になることです。それに加えて「単一生産拠点」とは、国際的な「分業体制」の形成が前提とされています。たとえば貿易手続きが統一され、まるで1つの国のように国境を超えてモノやヒトが往来することです。
 
 このように考えると、アセアン諸国の中で、メコン川流域国が注目されます。タイ・ベトナム・ラオス・カンボジア・ミャンマーという隣同士の国々が、それぞれの多様性を認めながら、つまり、それぞれの個性を生かしながら、一つの市場そして一つの生産拠点になります。このような「単一市場・単一生産拠点」が実現するまでには、各国で多様な問題点があり、おそらく紆余曲折はあるのですが、その目標に向かうことについてアセアン諸国は合意しています。

 このようなアセアン共同体の当面の課題のひとつは、アセアン諸国の中で経済発展の遅れたメコン川流域の国々の経済を底上げすることです。共同体の円滑な運営のためには、経済格差の是正が必要であり、そのために日本はこれらの国々を支援しているのです。そのことが、日本経済の成長にも貢献します。アジアの成長とともに日本も成長する。ここに、日本経済の明るい将来があると私は信じています。

6.東アジア首脳会議
 2015年以降、アセアン10カ国に日本・中国・韓国3カ国を加え、さらにオーストラリア・ニュージーランド・インド3カ国を加えた16カ国で構成される「東アジア首脳会議」の参加国の間でも関税が引き下げられ、アセアン共同体が拡大することがすでに決まっています。これは、32億人の人々が住む地域が一つの市場になることを意味します。ヨーロッパのEUのような経済の統合が、アジア・太平洋地域で実現に向けて前進しています。またアメリカは、東アジア首脳会議に来年からロシアと共に参加することになっています。アセアンを中心にして、このような経済統合・貿易自由化が進んでいます。

7.TPP
 これに対して現在、日本ではTTP加盟の是非が議論されています。TTPとは、環太平洋経済連携協定または環太平洋パートナーシップ協定であり、APECの加盟国であることを前提にしています。11月13日から横浜でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催され、日本にとって、TPPの参加に向けた交渉をするかどうかが「宿題」となりました。このTPPも「アセアン共同体」と同様に貿易自由化のための協定です。

 このように、自由貿易地域を形成するための国際的な枠組みには「アセアン」と「APEC」の2つが存在し、それらの国々が重なっています。枠組みは相違しますが、その目的は同じ自由貿易そして経済統合であり、その参加国の大部分が共通しています。したがって、「アセアン中心」の貿易自由化と「APEC中心」の貿易自由化を対立的にとらえるべきではないと思います。アセアン共同体はアメリカ・ロシアにも扉を開き、APECではアセアンの中のシンガポール・ブルネイ・マレーシア・ベトナムが既にTPPの交渉を始めています。

8.TPPに参加するベトナム
 TPPの参加国で注目される国はベトナムです。アセアンの先輩国タイ・インドネシア・フィリピンさらに日本よりも早く、同国はTPP参加を決めています。このことは、ベトナムが市場経済化を真剣に進めていることを意味します。逆に言えば、社会主義を目標とするベトナムよりも日本が市場開放に遅れをとっていることになります。ベトナムがTPPの参加に熱心な理由は、TPPに参加すれば、アメリカとFTA(自由貿易協定)を締結したことと同じになるからです。

 ベトナム最大の輸出相手国はアメリカです。2009年で114億ドルに達しています。第2位の日本の2倍ほどです。アメリカの関税が撤廃されれば、ベトナムにとって輸出拡大のチャンスとなります。ただし両国が対等の立場で交渉することは、その経済格差のために難しいとベトナムが考えても不思議ではありません。それに対してTPPは多国間協議ですから、アメリカと単独で交渉するわけではありません。

 他方、ベトナム最大の輸入相手国は中国であり、輸入額が2009年に164億ドルに達し、やはり第2位の日本の2倍以上です。それに対して中国に対する輸出は49億ドルですから、ベトナムの貿易赤字の最大の原因が中国との貿易なのです。このような中国とアセアンの関税撤廃が2015年に迫っています。そうなると関税なしに中国製品がさらにベトナムに流入するでしょう。さらなる中国との貿易赤字拡大を抑制するために、最大の輸出相手国である米国との関税撤廃を急ぐ理由がベトナムに明確に存在しています。

 TPPは、これまでの貿易自由化の議論とは性格が異なっているように思います。アメリカのような大きな国の圧力で経済を開放するというのではなく、ベトナムのような発展途上国も自ら参加を表明しているからです。それは、アセアン共同体という市場の統合、経済の統合がすでに決まった方針になっているという背景があります。ベトナムにとって、遅かれ早かれ貿易を自由化しなければならない。そうであれば、TPPに加盟して、アメリカとも早く貿易を自由化したほうが、中国との貿易自由化に対抗することができるのです。

 こういったアジア全体の経済動向を見渡した中で、日本のTPP加盟の問題を考える必要があると思います。いわゆる戦略的な発想が求められています。それと同時に、今回のエッセーで取り上げたベトナム・ラオス・カンボジアが、経済統合の中で、どのような発展をたどるのでしょうか。今後も、注目したいと考えています。

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