メコン川流域3カ国の余談:ベトナム経済のインフレーション懸念(下)
ベトナムの金融政策(本ブログ9月7日の続き)
HSBC Holding PlcのエコノミストPrakriti Sofatは先月(注:7月)に次のように述べた。ベトナムのインフレーションは、すぐに再び加速し始めるであろう。商品価格・弱い通貨・銀行貸し出しの増加が引き金になる。おそらくインフレーションは、8月に約2%にまで下落した後の9月に加速し始める。
7月20日にベトナム国家銀行は、第Ⅱ半期に金融政策を管理して信用を年間27%も増大させると述べた。モルガン=スタンレーによれば、本年までの融資は約20%増えている。エコノミストは「この融資目標が固定されているとすれば、第Ⅱ半期の信用額は第Ⅰ半期の半分未満に落ち込むであろう」と指摘する。「微妙な政策調整が、デマンド=プル(需要過剰)インフレーション圧力の可能性を縮小させるために実施されなければならない」。
中央銀行は、インフレーションを抑制するために10月に14%にまで達した基本利子率を6回に渡って引き下げ、1月以来7%に維持している。
統計総局のデータによれば、ベトナムからの船積み額は前年同期の1月から6月に比較して13%下落し、323億5千万米ドルになっている。ベトナムからの輸出は、コーヒーとコメの輸出が世界第2位であるが、商品価格と生産の上昇に伴って回復しつつあるとドラゴンキャピタル運用担当者が投資家に対して今月に述べた。
「潜在的インフレーションと貿易赤字の圧力のために政策先導型景気回復に限界がある。このことは、成長のために市場に基づいた輸出先導型景気回復に政策転換しなければならないことを示唆している」とモルガン=スタンレーのエコノミストは述べる。「われわれは、市場に基づいた輸出先導によって景気が回復することを信じている」。
コメント
:米国発世界同時経済不況は、ベトナムにとって輸出と直接投資の減少をもたらすと考えられる。この対策として内需拡大(=国内市場の拡大)が一般に指摘される。ただしベトナムの場合、インフレーションと貿易赤字の増加を回避するという優先順位の高い政策も同時に考慮されなければならない。インフレは国民の不満を増大させるし、貿易赤字は為替レートの下落(ドン安)を誘導する。
そこで上記では、景気回復は政策投資によって国内需要を増大させるのではなく、輸出の拡大を追求するべきであると指摘されている。要するに、輸出減少に伴う不況対策は輸出増大であると主張しているにすぎない。これは解答になっていないように思われるが、しかし次の意味で正解である。
新たな輸出先や新製品の開発、そして品質改善の好機として世界同時不況を理解するのである。市場経済において景気変動は不可避である。そうであるなら、不況期こそこれまでの惰性的な経営を改善する好機である。日本経済の発展を振り返っても、その繰り返しでなかったか。
世界同時不況はベトナムにとって試練であるが、それを乗り越えることができる企業が次の成長段階に向かうのである。
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