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2008年11月13日 (木)

根拠のない自信あふれる古森義久氏の「ベトナム政府の本音」を問う!

 古森義久氏が、「ベトナムから見た日本」という新聞記事を執筆している(「ポトマック通信」『産経新聞』2008年11月7日)。これは、10月下旬に米国「ワシントン東西センター」で開催された「中国と米国とのはざまのベトナム」というテーマの講演に対する印象記である。

 講演者は、ベトナム外交学院の研究員グエン・ナム・ズン氏である。「ズン氏はベトナムが中国と米国との戦略関係をそれぞれどう保ち、どう動かすのかを実例をあげて明確に語っていった。30代にみえる同紙は流暢な英語で、スライドを駆使しながら、米中両大国との間合いの取り方や、一国だけに接近した場合の一長一短を説明した」。この古森氏の記事について私見を述べてみたい。

 私見では、講演者のズン氏が所属するベトナム外交学院は、ハノイの貿易大学に隣接して立地しており、ベトナム外交官の養成所である。彼は、米国の研究機関に研究員として留学しており、ベトナム政府の対米政策の将来を担う若手の俊英であると想像される。

 「報告後の質疑応答で米国人学者から『ベトナムにとって日本の米中両国が超重要とはいえ、日本との関係も考慮すべきではないか』と質問が出た。するとズン氏はごくあっさりと「いや、日本はこの種の戦略構図に含める必要はないと思う」と答えた。

 そこで古森氏も、ベトナムにとって日本が「戦略パートナー」として重要だと指摘し、それはベトナム側も認識していると意見を述べた。「すると、ズン氏はやや気まずそうに『まったくの私個人の見解であり、政府の政策を代表していない』と、早口で述べた。だがベトナム政府の本音も、そんなところかなと、つい感じさせられたのだった」。

 古森氏の「ベトナム政府の本音も、そんなところかなと、つい感じさせられた」という理由が私には理解できない。そもそも、この発言の真意が不明である。私の独断で敷衍すると、ベトナムにとって日本は最大のODA供与国であり、経済的には尊重するが、政治的により重視している国は米国と中国であり、ベトナムは日本を軽視しているということであろうか? 日本とベトナムの友好・親善・協力関係に「水を差す」意図が古森氏にあるのだろうか? これまでの古森氏の論説から考えれば、おそらくそうであろう。

 米国と中国が歴史的・政治的・経済的に最大の影響をベトナムに及ぼしてきたし、現在もそうであることは間違いない。さらに両国は、より単純に言えば、ベトナム最大の「敵国」であった。日本は、これらの米中と比較すれば、友好国・同盟国に近い存在である。当然、ベトナムの対外戦略にとって、米国・中国と日本とは位置づけが異なっている。同じモデルで論じることに無理がある。

 この講演者のズン氏も、そのように考えたのであろうし、この報告のテーマは米中に焦点がおかれており、日本は最初から報告の対象ではなかった。ましてや報告が米国で行われており、主要な出席者は米国人であることが想定されていたと思われる。米国に滞在して研究している30代の若手研究者が、わざわざ日本を取り上げる必然性はないと想像される。

 米国で開催されたセミナーに自分より年配の日本人がたまたま出席し、「日本はどうなってんねん?」と質問されると、それは当惑するであろう。そういう質問は想定していない。それを「ベトナム政府の本音」と邪推されても、そのことにズン氏の責任はない。

 よく日本の学会でも「ないものねだり」の質問をする人がいる。報告の主題でなく、報告に含まれていないことを質問する。本来の質問は、報告の内容それ自体の内在的な問題を指摘することが正当である。それによって報告者の報告内容は改善され、それが研究の深化につながる。

 上記のズン氏は、上記のような質問には「ご質問、ありがとうございます。日本を含めたモデルは別の機会で検討します」とだけ回答しておけばよかったのである。それだけの問題について「ベトナム政府の本音」を感じる古森氏を私は不思議な人であると思う。 

 

 

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