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2008年10月28日 (火)

「薄いベール」と「フランケンシュタイン的怪物」の暴露:新しい投資ファンドの提案

 ノーベル経済学賞を1970年に受賞したポール=サミュエルソン(マサチューセッツ工科大学名誉教授)は、米国発の経済危機について、私には的確と思われる分析と対策を指摘している(『朝日新聞』2008年10月25日)。

 私の大学生時代、サミュエルソンの『経済学』は版を重ねる標準的な教科書であった。当時、原書を読まなければならないと購入したものの、最初の数ページで終わった記憶がある。その後、大学院の入学試験対策でフランス語を勉強するために、サミュエルソン経済学のフランス版を少し読んだ記憶もある。

 サミュエルソンは「天才」であって、学生の指導が下手と聞いたことがある。わかり切ったことを詳しく説明したり、難しい数式を当然のように使用したりした。自分と学生の能力格差を十分に理解できていなかったことが原因だと言われていた。そのサミュエルソンも現在93歳。彼の写真を新聞で見て、確かに老人になっていたが、その記事の内容は依然として明解で鋭い。やっぱり天才は衰えずだ。

 さて彼によれば、今回の経済危機は、1929年の大恐慌以来「最悪」であり、それと同時に、それは「避けられたはずの危機」であると指摘されている。これまでの米国政権の共和党・ブッシュ大統領の失政が原因である。ブッシュ大統領は「億万長者に対して優しい政治」を推進し、「米国の歴史におきて最悪の大統領として名をとどめる」と評価されている。

 今後の経済対策として、これまでのブッシュ路線を転換し、「赤字をいとわない財政支出」が必要だと提案する。これは、オバマ大統領候補の「公的資金の投入」という経済対策と符合している。これまでの自由主義的な市場経済の「小さな政府」の下での金融政策の時代から、政府が主導する財政政策の時代に軸足が動くということである。

 この記事の中で、今回の危機を招いた不動産・株価バブルを増大させた犯人として「悪い規制緩和」や「無能な人物の登用」と同時に金融工学が摘発されている。サミュエルソンは「『悪魔的でフランケンシュタイン的怪物のような金融工学』が危機を深刻化させた。表現が長すぎるというのならば「金融工学のモンスター」と縮めてもいい」と述べている。

 この金融工学「のもとで、『信じられないほど激しいレバレッジ(てこの原理を使うように、少ない元手で大きな取引をすること)のやりすぎ』が横行した。そうした中で、人々は自分が何をしているのかがわかならくなってしまっていたのだ」。

 私見では、たとえば極めて高いリスクの証券でも、格付けが最優良(AAA)の金融機関が販売すれば、そのリスクが忘れられてしまう。これが債権の証券化の「落とし穴」である。この金融工学について私は10月18日に次のように指摘した。「エレガントで精緻な金融工学は、文学的な表現にすれば、どす黒い欲望を覆い隠す薄く脆いベールのようなものであるかもしれない」。これは「大きなリスクを隠すための華麗なラッピング」と言い換えることができる。

 このような「金融工学」の反省として、単純で明解な投資が今後は選好されるのではないか。たとえば、たとえ損失リスクがあっても、その投資それ自体は無駄ではない、社会的に貢献する納得できる投資である。より具体的には、地球環境保護の目的に限定された投資ファンドがそうであるし、私が関係するベトナムについては、ベトナムのインフラ建設・中小企業育成・裾野産業育成のための投資ファンドもそうである。民間の投資ファンドが発展途上国の経済発展を支援することは、公的なODA資金では不可能であった大きな効果と利益の可能性をもっている。こういった投資ファンドの理念・コンセプト・スキームの新しい提案が投資運用会社には求められていると私は考えている。これが、今回の金融危機に伴う私の教訓である。 

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