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2008年6月30日 (月)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(6):「曖昧さ」に留意

 新川氏の著書を読んで、カンボジア人のことを多様に学ぶことができた。たとえば彼女は次のように述べている。

 「こんな馬鹿がつくほど純粋な人の良い職員を絶対見捨てられない」(p.46)。彼女が働くNGOのカンボジア人について述べた部分である。念のために言えば、この「馬鹿」は、前後の文脈から深い愛情と信頼から生まれた言葉であることは間違いない。

 「毎日の生活をすることが、彼らにとって一番大切なことであり、過去を振り返っている余裕がないのかもしれない」(p.53)。これはポル・ポト時代に対する意識調査の結果を示している。そこでの「あなたを苦しめたポルポト派幹部を許しますか?」という質問に対して、「許す」(67.2%)、「許さない」(26.5%)という驚愕の結果が示される(p.57)。外国人のわれわれから見れば、当然「許さない」と思うのだが、この回答は不可思議である。これが現在のカンボジアを理解する鍵であるかもしれない。

 この理由として新川氏は、カンボジア内戦は「カンボジア民族という単一民族で生じた出来事である」こと、「あまりにも凄惨でありすぎること」、「国民の3分の1にあたる人々、それも知識層を主とした抹殺は、残りの人々に戦意を消失させた」ことなどを指摘している(p.57)。さらに現在も加害者と被害者が共存・同居している状況だからであろうか。

flairflair加害者と被害者が共存しているカンボジアにおいて、よく知らないカンボジア人同士は過去を問いかけることに慎重にならざるをえないだろうし(p.82)、ましてや外国人が興味本位でポル・ポト時代の状況を聞くことは避けるべきなのだろうと思う。私の親しいカンボジア人に確認するべき宿題である。

 このことを新川氏は別の質問のコメントではあるが、「「曖昧さ」こそ、現代のカンボジア社会の特徴である。しかし、この特徴がこの国の発展を妨げているとも言えよう」(p.59)と述べている。この指摘は、程度の違いはあるが、日本にも当てはまるのかもしれない。西洋的な合理主義を徹底できない「曖昧さ」を日本人も所持しているように思われる。

 たとえば日本企業では、株主や経営者と立場が異なる従業員・労働者を「社員」と長く呼んできた。このような数々の「曖昧さ」が日本型経営の長所でもあったが、逆に今日、外国ファンドといった株主の目から見れば、それらが奇異な現象とみなされている。

 この「曖昧さ」は次のような疑問にも関連する。「国全体のモラルが国際的な基準に合致することのできる国に、カンボジアはなることができるのか? ポル・ポト派裁判の経過そして結果がそれを示すであろう」(p.60)。

 この「国際的な基準に合致」するためには、「曖昧な」カンボジア人自身による改革は難しい。「曖昧な」日本やベトナムの歴史が証明していると思われる。改革のための「外圧」が必要である。事実、カンボジアは2004年にWTO加盟を果たし、それに付随した改革が進展してきている。

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2008年6月29日 (日)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(5)

 新川氏の著書の「腹帯」のキャッチコピーに使用されている次の文言にも注意が必要である(p.44)。

 「あるものなら、使えるなら何でも使ってしまう」

 「私のものは私のもの、貴方のものも私のもの。皆で仲良く使いましょ。壊しましょ」

 これぞまさしくカンボジアンマナー!!!

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 このキャッチコピーを『ビジネス書』に付ければ、著書の購買意欲は増加するであろうが、実際の投資意欲は激減することは間違いない。しかし、こういう国だからこそ、進出して成功させることが「面白い」(=リターンも大きい)と考えるのがビジネスであると私は思う。なお新川氏の著書は、ビジネスパーソン向けの著書ではないが、そこからビジネスの教訓を引き出すことが私の意図である。

 ベトナムでも一部の日系企業で工場の原材料や工具の「お持ち帰り」がある。いわゆる窃盗事件である。それを防止するために、ガードマンを雇って工場の出入り口でボディーチェックをしたり、金属探知機の設備を導入したりしている。上記のキャッチコピーによれば、このような対応がカンボジアでも当初から導入されなければならない。

flairflair:この金属探知機は、盗難防止のために図書館やレンタルビデオ店などで広く日本でも使用されている。工場での導入は不思議でない。ただしこれは「従業員を信頼していない」という表明であるから、日本人にとって抵抗感があるかもしれない。

 また従業員に対する社内教育、特に操業前からの事前教育が重要であろう。ベトナムの別会社の事例であるが、次のような教育姿勢が参考になるかもしれない。

 「工場に入れば、そこは別世界」という意識を根付かせる。工場には工場の規律がある。その規律は、目に見えない潜在的な競争相手、カンボジアの場合はタイ・ベトナム・ラオス・ミャンマー・バングラディッシュなどの労働者と競争するためである。これらの国々の労働者が、目には見えないけれども、隣りに座って作業競争している。このような意識で工場内では働く。

 また、タイやベトナムが好きでないカンボジア人に対して、「タイやベトナムに負けるな」という意識を植え付けることは、労働意欲や規律を高めることに効果があると思われる。このような意味で、すでにベトナムに進出している企業が、その「衛星工場」としてカンボジアに進出し、そのカンボジア工場でベトナムに対して良い意味での対抗意識を醸成させる工夫をする。ベトナム経由でのカンボジア進出の最悪は、カンボジアにおける偉そうなベトナム人管理者の起用であろう。このようなカンボジア進出モデルが提起できる。

 

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2008年6月28日 (土)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(4)

 カンボジア人の気質を理解する場合、かつてのポル・ポト派幹部に関する新川氏の次の指摘は重要である。

 「残虐行為を行ったことに対して、恥も悔恨も認められない。彼らは悪行を行ったことを認めたくないのである」(p.38.)。

 その理由は、「仏教の「輪廻―因果応報」を信じており、裁判でなく宗教的報いを、今後死後の世界でも、その後の生まれ変わった世界でも受けることを恐れているからではないか。しかし、もしこのような宗教的観念が、真実を語ることを妨げているのであるなら、それは根深い問題である」(p.40)。

 ベトナムは大乗仏教、カンボジアとラオスは上座部仏教と特徴づけられる。大乗仏教は、大部分の日本人の宗教と同じであると考えれば、ベトナム人の宗教観は理解できる。旧正月にはお寺参りをして、それぞれの家では先祖に手を合わせ、クリスマスにはプレゼントやクリスマスツリーを飾る。このようにベトナム人は宗教について許容範囲が広く、柔軟である。これは宗教のみならず、ベトナムの国民生にも反映しているように思われる。

 これに対してカンボジア人の宗教観をこれまで私は十分に知らなかった。馴染みの運転手が、プノンペンからシハヌークビルを往復する時に、休憩場所にあるいくつかの仏像に手を合わせていたことを見た程度である。

 前述のような「輪廻」がカンボジアで深く信じられているとすれば、極端に言えば、おそらく現世の行動はすべて正当化される。たとえば贈収賄でも、「もらって当然」・「贈って当然」という論理が働くはずである。「もらう人」は前世で善行を積んだ人である。「贈る人」は、その後に儲けたお金の一部ををお寺に寄付すれば善行になる。このような心理的な正当化があれば、贈収賄が法律で厳禁されても、おそらく解消されない。

 さらにビジネスで納期が遅いので苦情を言えば、「それは貴方の前世が悪いからだ」と反論される。さらに交通事故や病気になっても、それは前世の影響なので文句を言えないし、あきらめの心境になる。

 このような宗教の曲解もしくは牽強付会が蔓延しているとすれば、こういった国のビジネスは大変だ。「輪廻」の思想は、現世の悪行を抑制する効果よりも、現状の悪行さえも肯定・正当化する効果を生むのかもしれない。この点がカンボジアで一般化できるのか。ビジネス上のトラブルの原因にもなるので、さらに検討と確認が必要な論点である。

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2008年6月27日 (金)

愛国心に訴える:「ベトナム経済救国戦線」を結成すれば?

 世界で一番の愛国心をもった国民はベトナム人である。そのことを以前に本ブログでも紹介した。それは、学校における愛国教育の影響もあるだろうが、それ以上に家庭教育の影響が大きいと思う。

 父親・祖父そして親戚がフランスやアメリカの戦争に従事し、それを母親を始めとする女性が後方で支援する。さらに場合によっては女性兵士として従軍する。そして少なからぬ犠牲者が親族の中に存在する。さらに現在も、アメリカ軍の枯葉剤による被害を遺伝子的に受け継いた子ども達が誕生する。

 このような膨大な犠牲を払って勝ち取った統一と独立の祖国ベトナム。そのベトナムを愛さないでどうするのか? 普通のベトナム人でも、このように考えるのが自然であろう。ベトナムの愛国心は、自然発生的な愛国心とみなすこともできる。

 今、ベトナムでは経済危機が指摘されている。特にインフレである。インフレに伴う生活苦も発生している。国際収支の赤字も心配だ。こういった状況が深刻であれば、政府は、国民の愛国心に訴えることも必要であると思う。国際収支の改善のために輸入品から国内品に購買を移すとか、贅沢な輸入消費財の購入を避けるとか、また、投機的な為替売買を自粛したり、電力を節約したりとかである。さらに方策は多々ありうる。

 ベトナム政府は、WTO加盟後に政府規制による経済誘導は難しくなっている。自由市場の原則を歪めることはできない。ただし他方、国民に直接に訴え、経済回復のための国民運動を政府が誘導することは可能である。輸入品を政府が規制することはできないが、自発的に国民が買わないことは自由である

 かつてのフランス戦争の時に「ベトナム祖国戦線」が結成され、その組織が現在まで続いている。これは、広範な国民各層で構成された統一戦線の組織である。私聞では、たとえば国会議員などの選挙に立候補する場合に祖国戦線からの推薦が必要である。現在、このような組織に類似した「ベトナム経済救国戦線」を結成すればどうか?

 これは全国的な国民運動として、ベトナム経済の回復を目標とする組織である。私見では、本当に危機が迫れば、こういった組織が結成されても不思議でないと思うのだが、実際には未だ結成されていない。ということは、外国メディアやエコノミストが騒ぐほどに危機は深刻ではないということである。ベトナム人の愛国心を考慮すれば、また、近年に戦争の惨禍を経験したベトナム人から見れば、他国に比較して、経済危機の克服はより容易ではないかと思われる。危機克服のための忍耐力は十分に備わっているとみなされる。

 純粋な経済指標の分析のみならず、ベトナム人の国民性といった観点からの経済危機の分析も必要ではないか?

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2008年6月26日 (木)

ベトナム・ラオス・カンボジアに注目:韓国版「白い巨塔」にも注目

 最近の本ブログを見れば、ベトナムとラオスとカンボジアの情報が交錯している。「ひょっとして、上田先生は精神錯乱では?」という疑問をもたれた読者も多いのではないか。

 私は確かに「移り気」である。換言すれば、「浮気症」である。しかし同時に「凝り性」でもある。たとえば最近、韓国版『白い巨塔』のDVDを入手した。田宮版・唐沢版に加えて韓国版を比較検討することは、私にとって至福の喜びである。

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 韓国版『白い巨塔』については、別途に論評するが、率直な印象は「韓国、恐るべし」。脚本も俳優も演出も日本に優るとも劣らない。さらに脚本家が、山崎豊子の原作を韓国現行の文化や慣行に適合するように修正したと述べている。このことは、韓国版と日本版を比較対照すれば、韓国の文化や社会の特徴が明示されるということである。

 さて冒頭のベトナム・ラオス・カンボジアについて戻れば、これら3カ国は「開発の三角地帯」と日本の外務省が位置づける共通点がある。まさに超大国である中国とインドの間のインドチャイナ半島に新たな成長地帯が広がりつつある。ただし、これら3カ国の文化・慣習・社会・歴史が相違している。この相違は、ビジネスにとって絶妙の「棲み分け」ができるようにも感じられる。また拡大・浸透する中国の影響力をどうみるか?

 以上、「発展の三角地帯」の「棲み分け」を研究する。このように言えば、ラオス・ベトナム・カンボジアの研究は、けっして「移り気」でも「浮気症」でもない。新しい視点の研究である。 

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2008年6月25日 (水)

カンボジアの証券法について(9):ベトナム法との比較

第16条 証券の公募

 次の条件を満たさない場合、人は、カンボジアにおいて証券の公募を実施してはならない。
1.カンボジア王国において登録された公開有限会社によって、または現行の法律と規則に従って規定された認可事業者によって発行されるまたは発行された公募の証券であること。

2.この法律に従った法令が規定する入札免除の公募、この法律の要件に合致した公募に関する公募と情報開示の書類の条項、そしてこの法律によって規定された他のすべての要件がCSEC長官によって事前に承認されていること、および情報開示書類がCSECによって登録されていること。

第17条 証券の公募および情報開示書類の登録の承認申請書

 証券の公募を申請する人は、申請された入札の承認、およびCSECに申請された入札に関係した情報開示書類の承認と登録を申請できる。その人がなすべきことは、

1.所定の書式で申請書を提出する。その中には申請された証券公募の条項の複写物、およびこの法律とこの法律に従って規定されたすべての要件に合致する情報開示書類が含まれる。

2.このような申請書の提出には規定の手数料を支払う。

shineコメントshine:証券の公募について具体的な手順を記載している。さらに具体的な申請手続きや書式の公開が望まれる。

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2008年6月24日 (火)

ベトナム経済危機説に反論する立場

 日本の外務省の言う「開発の三角地帯」ベトナム・ラオス・カンボジアを対象にして、10年以上も私は仕事をさせていただいてきた。このことを考えれば、これらの国々には感謝の気持ちで一杯だheart04

 このような感情から言えば、ベトナム経済の危機説が最近に主張されると、それを否定したくなるのが人情である。もちろん、客観的な分析や視点に基づいて、危機を認めざるをえない場合もあると考えられる。この時には、さすがの常時「強気」の私でも、「こら、もうアカンhappy02」と表明するだけの覚悟と矜持をもっているつもりである。

 この意識は、1991年の「ソ連崩壊」時に、私の周囲の人々から聞かされた私の経験に基づいている。旧ソ連は、日本人のソ連研究者に対して、自国の広告宣伝(=プロパガンダ)に活用できる場合、勲章を授与したり、さまざまな便宜を提供してきた。その顕彰と期待に応えて、日本人研究者も、旧ソ連の宣伝にも似た研究(実際には、ソ連における研究成果の翻訳と紹介)に従事してきた。

 しかし、こういった日本人研究者は、ソ連崩壊後には、自らの立場を喪失した状況に置かれた。持続的発展をすると信じて疑わないソ連が崩壊すれば、その後に何を対象に研究すればよいのか? 普通の神経では、茫然自失の状態になる。

 これと対照的に、ソ連崩壊後も元気であった日本人のソ連研究者は、研究対象であるソ連を客観的に、さらに批判的に研究してきた。ソ連崩壊を予見しえた研究者が、ソ連崩壊後もソ連研究者として生き残ることができた。

 客観性と批判精神は、研究者として尊重すべき最優先の姿勢であると思う。ベトナム研究においても、その対象に情熱をかけながらも、その分析は客観的・批判的でなければならない。

 以上、私は、このように表明した後であっても、ベトナム経済やベトナム株式市場の長期発展に疑いの余地はないと思っている。

 

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2008年6月23日 (月)

JICA兵庫国際センターでの講義

 月曜日は朝からJICA(独立行政法人国際協力機構)・兵庫センターで講義があった。受講生は、昨年と同様に「貿易促進コース」15名である。

 今年の出身国は、アルゼンチン2名、アルメニア1名、ドミニカ共和国1名、インドネシア2名、カザフスタン2名、メキシコ1名、ネパール1名、パプアニューギニア1名、タイ1名、マケドニア1名、ウクライナ1名、ベトナム1名である。

 この講義は、グループディスカッションの形式で行っており、それぞれの受講生の個性が強く出る。それは、あくまでも個性であるが、あたかも、その出身国の国民性の特徴のように思われてしまう。マケドニアは誇りが高く、ベトナムは調整役で、メキシコは気配りがうまい。こんな調子で受講生を見ていると興味深い。

 いずれの受講生も20~30歳台。各国の貿易担当の若手官僚である。7週間の日本での滞在を通して、お互いに友情や親近感が生まれることは間違いない。日本の行政機構や企業経営について学ぶだけでなく、これらの国々の人的交流が促進される。よく考えられた研修コースであると思う。

 なお、これらの研修生が来日して共通して感心していたのは、日本の交通システムである。新幹線の正確な運行管理やICOCAまたSUICAの利便性は、あまり日本人が気づかない日本の誇りであるのかもしれない。

 

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2008年6月22日 (日)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(3)

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 上記の著書では、カンボジア人から見た隣国についての記述が興味深い。タイとラオスは次のように指摘されている。

 「カンボジア人のタイ人に対する感情も、ベトナム人に対するのと同様決して良くない。17世紀以降の歴史の中で、東からのベトナムの脅威と同様、西からはタイ(シャム)の脅威に常に曝されていたことは明らかである。しかし、ベトナム人への感情とは異なるものがある。一説によると、シェムリアップは「タイ人帰れ」という意味だそうである}(p.13)。

 「カンボジア人は「タイ人から、軽蔑され苛められるから」嫌いなのである」(p.14)。

 「カンボジア人はラオス人に対してだけは優しい。歴史的にもあまり軋轢がなかったこと、また地理的にも国境があまり多くないことも理由なのであろう。メコン川を共有する隣国として大切な存在である。・・・「ラオスは自然が沢山あって、平和な国」そんな良いイメージがあるようだ」(p.14)。

 2005年には1人当たりのGDPでラオスはカンボジアを追い抜いた。「経済成長もさることながら社会の仕組み自身に、発展性が感じられるラオス。今後のカンボジア人のラオスに対する国民感情は,予測不能である」(pp.14-15)。

shineコメントshine:私はタイ国およびタイ人について、ラオス訪問時の通過点という程度しか知らない。しかし2003年2月に発生したプノンペンのタイ大使館焼き討ち事件については、その後にプノンペンを訪問し、その背景を在留日本人の方々に聞いたことがある。タイ大使が大使館から退避するために、隣接する日本大使館の当時の小川特命全権大使が、タイ大使館裏のトンレサップ川に小舟を用意したというような裏話は、もう時効であろう。この事件から、カンボジアとタイの関係は必ずしも良くないという程度の認識は私にもある。

 前回と今回で紹介した著者の見解によれば、カンボジア人はベトナム人もタイ人も嫌いだが、その「嫌い」な感情や理由は少し異なっているようだ。この感情の相違は、もう少し私も調べてみたい。

 ラオスについて、「社会の仕組み自身に発展性が感じられる」と紹介されている。この意味は不明だ。これまでラオスに滞在・訪問して、このような指摘を在留日本人から聞いたことがない。著者の思い過ごしか誤解ではないか? 少なくとも経済的には、カンボジアが発展の可能性をもっている。総合商社の日本人駐在員はプノンペンに滞在し、ビエンチャンにはラオス人スタッフを常駐させるという形態が一般的である。

 ただしラオスは、人民革命党の一党独裁の中央集権国家であるから、その意味では国家の統制や国民の管理が、多党制のカンボジアよりも容易という特徴はある。この政権形態の相違が「発展性」に影響するかは議論の余地がある。

 なお1人当たりのGDPをラオスがカンボジアを抜いたということは、私は気にしていなかったが、著者が指摘するように、カンボジアにとってはショックであるのかもしれない。人口がラオスはカンボジアの半分以下であるからしかたがないと思うのだが、隣国の成長や発展は誰でも大いに気になることは理解できる。

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2008年6月21日 (土)

ベトナム株式に対する妄言や流言飛語に対して

 ベトナム証券法の第9条の1と2には、次のような規定がある。

第9条 禁止される諸行為

 1.証券の公募、上場、取引、経営、証券投資、証券サービス、証券市場に重大な影響を与えるために、事実を偽り、欺き、誤った情報を作り上げ、あるいは必要な情報を隠して誤解を生じさせる諸行為を直接、間接に行うこと。

 2.証券の売買を紛糾、扇動させるために誤った情報を流すこと、あるいは市場の証券価格に大きな影響をもたらす事情についての情報を、適時に漏れなく公表しないこと。

 さらに、今年になってズン首相は、この法律の趣旨に基づいて次の2点を表明している。
・ 公安省は株式市場でデマを飛ばして投資家に悪影響を及ぼす行為を厳罰に処す。
・ 情報メディア省は国民が株式市場の発展に関する政府方針を理解できるように、各メディアに対して客観的な報道を指示する。

 ここでの違法行為となる情報のキーワードは、「偽り」「欺き」「誤った」「必要な情報を隠して誤解を生じさせる」「デマを飛ばす」である。

 現在のベトナムについて、たとえば次のようなことを言う日本人がいるそうだ。「某筋の予測ではベトナムのバブルはもうじき弾けるらしい。そこまで見ることが出来るかもしれない」。この「バブルはもうじき弾けるらしい」は、明らかに妄言・流言飛語に属する。そもそも「某筋の予測」が明示されていない。

 すでにベトナム株価の異常な高値は是正され、まさに「今が買い時」になっている。2006年からの株価上昇局面では、個人投資家の過剰な投資熱の影響で機関投資家が新株発行の入札が成功しない状況であった。まさに企業価値(=企業実態)を反映しない「バブル」のような株価だった。このような意味で、すでに「バブル」は沈静化した。

 おそらく、この日本人がいう「バブルが弾ける」とは、ドン暴落に伴う「通貨危機」を意味するのであろう。これについては、すでに本ブログでも指摘したように、1997年のタイ国とは事情が異なっている。当面の最大課題である「インフレ抑制」は、15%に達する高金利政策の効果が出ると期待されるし、その効果に時間を要する場合、公共投資事業を延期して、ある程度まで経済成長を犠牲にすることも選択肢になるであろう。また外貨準備の放出も視野に入るかもしれない。

 まだまだベトナム政府には政策的な選択肢が多々ある。「打つ手がなくなった」という状況ではない。政策実施のタイミングや程度が課題となっている。私見では、思い切った大胆な政策遂行が、国民や外国人投資家を安心させる。もちろん最悪の場合、IMF(国際通貨基金)の緊急融資というような事態も考えられるが、これまでベトナムは途上国としてIMF・世界銀行・アジア開発銀行といった国際金融機関からの助言や支援を受けている。現在のベトナムの経済・金融破綻は、これらの国際機関の努力や成果を無にすることを意味する。それはベトナム政府も国際機関も望んでいない。そうであるとすれば、最悪の事態を招くことはありえないと私は判断している。

 以上、上述のような「もうじき弾けるらしい」というような気楽な発言は、インフレと懸命に闘うベトナム政府や、それに耐えているベトナム国民に対して、少なくとも非礼であると思う。

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2008年6月20日 (金)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(2)

 カンボジア人の国民性には、どんな特徴があるのか? タイトルの著書から以下で抜き書きする。

 「カンボジアを一言で表すなら、「八方美人的」「人当たりの良い国民性」ではないだろうか。「日本人女性好みのカンボジア男性」が多くいることは事実である。・・・(引用者注:ベトナムに比較して)気配りがあり、どちらかといえば優柔不断なカンボジア男性は、日本人女性好みだそうである」(p.8)。

 「兎にも角にも、カンボジア人は総じて、穏やかな国民性である。優柔不断で、和(輪)を重んじるために時として真実がそれてしまう、そんな点は日本の国民性に似ているかもしれない」(p.9)。

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 「ベトナム人との関係の悪さは、アンコールワットの彫刻絵でも発見できる。また、ポル・ポト政権以降のベトナムとの関係は、現在に至るまで政治的にも、文化的にも、複雑怪奇であり、一言で表すことは難しい。17世紀以降の歴史を振り返ると、常にカンボジア人は、ベトナムの脅威に曝されてきたことは明らかである。そのためか、現代のカンボジア人のベトナムへの感情は良くない」(pp.11-12)。

 「カンボジア人は、基本的にベトナム人を軽蔑している。しかし、現代の開発状況から考えると、明らかにベトナムの方が発展している。でも「カンボジア人はベトナム人をバカにしたい」という屈折した感情がある」(p.13)。

shineコメントshine:確かに、私の経験でも、カンボジア人は穏やかでにこやかに対応してくれる。「ポル・ポト政権時代の虐殺の被害者と加害者が共存している国」という表現を著者はしているが、それが可能であるのも、以上で指摘されるように、優柔不断さや輪を重んじるためであると考えられる。

 ベトナムからカンボジアを訪問する場合、アオザイやノンラー(ベトナム流の編み笠)を身につけるのは、カンボジア人の感情を逆撫でするので「絶対に慎むように」とガイドブックに書かれているという指摘もある(p.12)。カンボジアでは、余りベトナムの話をしない方がよい。今後は気を付けよう。クメール人の誇りがベトナムをバカにするのであろうか。ベトナムとカンボジアの関係については、ビジネス上でも留意と配慮が必要であるかもしれない。

 

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2008年6月19日 (木)

カンボジアの証券法について(8):ベトナム法との比較

第14条 証券の発行と公募の申請条件
 本章が適用する申請が、カンボジア王国の公共の利益になるかどうかを決定する目的のために、CSEC長官は次の点を考慮しなければならない。

1.証券発行者の統治と財務履歴の特質。

2.カンボジア一般における証券市場と資本市場からの必要性:それには存続可能な市場の発展のための必要性も含まれる。

3.申請された発行と公募の成功の可能性:その中には、提案された公募の下で購入または販売が申し込まれたすべての証券が、発行または売却されることを確約した引受契約を締結した引受契約書または提案書の存在が含まれる。

4.関連した証券市場において証券を上場するための要件。

5.この章の条文に従って情報開示書類を発行するための要件。

6.申請に関連した公共の利益を守るために適当であるとCSEC長官が判断したすべての他の問題。

第15条 申請された証券の発行と募集の承認
 この法律の第12条の下で提出された申請をCSECが承認する場合、申請した人または人々は、この法律に合致した申請通りに証券の公募を実施し遂行することができる。

shineコメントshine:第14条の3は、「引受契約書」が申請書類に含まれることを規定している。この引受機関は、証券会社であると思われるが、それ以外にカンボジアに存在する商業銀行や投資銀行も公募証券の引き受けは可能なのであろうか。こういった素朴な疑問が発生するのだが、その質問窓口はどこなのか。現地での確認事項である。

 上記の第14条の5では「情報開示書類」と記載されている。この原文の英語は、Disclosure documentとなっている。趣旨からすると、これは通常の「目論見書」(prospectus)ではないかと想像される。ただし「情報開示書類」には、「目論見書」以外の書類が含まれることも考えられる。この法律は、公式の英語訳ではないために、こういった混乱があることを予めご理解いただきたい。

 また、率直な印象であるが、ベトナム証券法に比較して、カンボジア証券法の条文は、極めて曖昧で具体的でない。それは、CSEC内部の規定・規則によって補足されるのでろうが、その公開と公平性が求められる。

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2008年6月18日 (水)

カンボジアの証券法について(7):ベトナム法との比較

第3章 証券の公募と発行

第12条 証券の発行と公募
 CSECが規定する法律や条件に適応して申請された公募について、CSECによって承認された人でなければ、新規証券の発行も公募もできない。その人は、この法律に応じて規定された申込手数料を支払わなくてはならない。

第13条 証券の発行と公募の申請に関する検討
 CSEC長官は、この法律の第12条の下で提出されたすべての申請を検討しなければならない。申請後3ヵ月以内に申請者に対して、その申請申し入れが、カンボジア王国の公共の利益になるとCSECによって見なされるかどうかを助言しなければならない。

shineコメントshine:第12条が規定する「CSECによって承認された人」とは、発行者である株式会社という意味であろう。おそらく最低資本金など上場の条件が別途に定められることになる。

 ベトナム証券法では、第10条から第12条が以下のように規定している。これらの条文を比較すれば、カンボジア証券法が、ベトナム証券法に比べて簡単であることが明確である。

第10条 証券の額面
1.べトナム社会主義共和国領内で公募される証券は、ベトナム通貨ドンで表記される。
2.初めて公募される株券、投信受益証券の額面は1万ドンとする。公募される債券の額面は10万ドン、および10万ドンの倍数とする。

第11条 証券公募の形式
1.証券公募の形式は、証券新規公募と、株式あるいは株式購入権の追加公募、およびその他の形式より成る。
2.政府は証券公募の形式について具体的に規定する。

第12条 証券公募の条件
1.株券公募の条件は、以下のものより成る:
 a)  企業が公募登録時点において、会計帳簿上の価値より算出して100億ドン以上の定款資本を有すること;
 b) 公募登録前年の経営活動が利益を上げ、同時に公募登録の年まで持ち越した累積赤字がないこと;
 c) 株主総会が採択した、株式発行の方策と公募より得られる資金の使用方策があること。

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2008年6月17日 (火)

カンボジア情報:新川加奈子『カンボジア今』を読む(1)

 現在のカンボジア人が、自国民を虐殺したポルポトを憎みながらも、そのポルポトを倒したベトナムも嫌いだ。これは、本ブログで紹介した熊岡路矢『カンボジア最前線』(岩波新書)の報告である。この理由は何なのか? 

 このような問題意識を持ちながら、新川加奈子『カンボジア今:ポルポトの呪縛は解けたのか』(燃焼社、2008年2月17日)を読んだ。同書は、カンボジアにおける著者の10ヶ月間のNGO活動を通して経験したカンボジア人・カンボジアに関する印象や調査結果を一般に分かりやすく紹介している。著者の子どもや精神障害者に対する優しい目線が印象的な著書である。

 以下、私の印象に残った同書の指摘を紹介する。特にビジネスとの関係を念頭に置きながら・・・。

カンボジア今―ポル・ポトの呪縛は解けたのか Book カンボジア今―ポル・ポトの呪縛は解けたのか

著者:新川 加奈子
販売元:燃焼社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 「事務所の物品の私物化、領収書、見積書の偽造、外貨両替時の不正などなど、あまりにも不正が多い事務職員の解雇」(p.iii)を逆恨みした職員が、著者が暴力を振るったと訴えた。「数ヶ月後、突然、裁判所からの呼び出しを受けた。呼び出し状には、要件名も理由も書かれていない。ただ、「指定期日に出頭し、1000万円を支払え」というものであった。

 これが、現代のカンボジアの現実である。お上の権力は絶対であり、呼び出し理由は必要ない。「一般市民でさえも、お金さえ出せば、警察の供述書も病院の診断書も偽造は可能であり、事実無根の事件を作り出せる」という現実が、21世紀のカンボジアには実在している。極左共産主義にとって代わった現実は、拝金主義である」(p.iv)。

shineコメントshine:以上の2点。「お上の権力」と「拝金主義」は、ビジネスの重要な留意点である。なお著者は、「残念ながらインドシナ半島に存在する国の中で・・・一番発展の見込みが薄い国である」(p.v)と指摘している。

 しかし私は、必ずしもそうは思わない。日本企業ゼファーが開発する「プノンペン経済特区」が完成し、シハヌークビル港までの道路・鉄道が連結する。さらにベトナムとタイの交通も円滑化する。シェムリアップのアンコールワット観光に付随した海岸線のリゾート開発も進む。カンボジアの若い大卒の人材も育ってくる。そして証券市場の開設は、少なくとも経済に刺激を与えることは間違いない。このような展望を考えれば、カンボジアも捨てたものではないと私は考えている。

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2008年6月16日 (月)

為替市場の規制と自由化:為替レートの二重性

 長期的に見て、食糧や鉱物資源を始めとする資源大国であるベトナムは、これまでの「ドン安」傾向から「ドン高」に移行すると思われる。しかし当面、「ドン安」傾向が続いている。これは、すでに指摘したように私見では、USドルの国外流出ではなく、国内の投機と外貨準備のためである。

 この「ドン安」傾向は、輸出企業にとって「追い風」となる。インフレの状態に依存するが、たとえばUSドルの支払い賃金は一定でも、労働者の受け取るドン建て賃金は上昇する。これまでのベトナムがそうであった。

 ただし今日、実際のビジネス現場では、ドンをUSドルに転換できない状況が生まれている。政府が、銀行を通して外貨流出を抑制しているのである。ドン建ての預金があっても、それがUSドルに転換できなければ、国際的には「紙くず」を保有していることと同じである。たとえば輸入企業は、USドルが調達できないので、輸入代金の支払いができない。

 このような現状を回避するために、ベトナムでは「闇市場」(=自由市場)が存在していた。為替は、公定レートと実勢レートの二重レートとなるが、その乖離は大きくなく、これまで両者は共存してきた。

 政府は、銀行を通した決済を監視することができるから、その範囲内で為替管理が可能である。しかし「闇市場」(=自由市場)における為替取引を政府は管理できない。しかし、この両者が補完的に機能してきた。民間企業は、正規の為替取引をしながら、必要に迫られる場合は闇市場を利用する。換言すれば、政府の顔を立てながらも、他方では自由に取引する。

 一定の闇市場の存在は、政府の為替管理が徹底しないという欠点をもつが、実際のビジネスでは「必要悪」であった。

 このような為替市場の二重性は、途上国ではよく見られる。ミャンマーもそうである。2003年時の私の経験では、公式レートと実勢レートの乖離が、正確に記憶していないが、数倍というレベルではなく、それ以上であった。これに対して、潔癖なミャンマー軍事政府は、公式レートに統一するために「闇市場」の取り締まりを強化した。そうなれば、通常の貿易は不可能である。これで経済は大混乱を招いた。flairflair:ミャンマーについては「民主化」問題に関心が集まるが、このような経済問題の解決や是正が当面は強く望まれる。

 ベトナム政府が、今日の為替市場を厳格に管理するために「闇市場」を取り締まればどうなるか? さらに暗く潜伏した「闇市場」が形成されるだけである。外貨準備が十分な水準になるまでの過渡的な段階として、こういった為替市場の二重性はやむをえないと思われる。

 事実、政府が市場を管理する場合、その管理の及ばない市場の存在を敢えて容認することが有効ではないか? 自動車のブレーキを踏む場合の「遊び」のようなものである。この詳細なメカニズムの究明は、開発経済における研究テーマにもなりうるように感じる。

 

 

 

 

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2008年6月15日 (日)

カンボジアの証券法について(6):ベトナム法との比較

  カンボジア証券取引委員会(CSEC)は、「証券法」によれば、次の権限をもっている。

第10条 CSECの特別権
 CSECの幹部職員は、司法警察としての法的能力をもち、司法警察の役割と職能に言及した刑事訴訟法で規定された職能をもつ。

第11条 CSECの組織と行動
 CSECの組織と行動は法令によって規定される。CSECは独自の予算をもつ。

 以上、カンボジアのCSECは強力な権力をもっていることが理解できる。司法警察と同等である。これに対して私の理解では、日本の証券取引等監視委員会が、違法行為を発見した場合、行政処分を内閣総理大臣や金融庁長官に勧告し、直接の監督職務をもつ地方理財局が処分を実施する。

 ベトナム証券法では、第8条において国家証券委員会(SSC)の任務と権限を規定している。同条のb)とc)が、行政処分を含む権限を規定している。

第8条 国家証券委員会

 1.国家証券委員会は、財務省所属機関として以下の任務、権限を有する:
 a)  証券活動および証券市場に関連する許可証、承認証を交付、期間延長、回収すること;証券活動および証券市場に関連する変更を承認すること;
 b) 証券取引所、証券取引センター、証券預託センター、および各補助組織の活動を管理、監察すること;投資家の合法的な権利と利益に影響を及ぼす兆候がある場合に、証券取引所、証券取引センター、証券預託センターの取引活動、預託活動を一時停止すること;
 c) 証券活動および証券市場における苦情申し立て、提訴を監査、監察、行政処分し、その解決をはかること;

 d) 証券活動および証券市場に関する統計、予測を実行し;証券および証券市場の分野における情報技術の現代化を進めること;
 e) 証券部門の幹部、公務員、職員層の養成・訓練機関、組織を組織化し、提携をはかり;証券と証券市場に関する知識を一般に普及すること;
 f) 証券、証券市場に関する業務規定と、関連する書式に指針を示すこと;
 g) 証券および証券市場の分野における国際協力を進めること。
 2.国家証券委員会の組織と管理運営機構は政府が定める。

 さらにベトナム証券法では、違法行為を次の第9条で列挙し、違反者は第118条において「違反の性質、程度に応じて、規律処分、行政処罰、あるいは刑事責任の追及を受ける;損失を招いた場合は、法律の規定にしたがって賠償しなければならない」とされている。

 ここでの疑問は、ベトナム証券法におけるSSCの権限と、いわゆる公安警察の権限の関係である。捜査権力について、どのような関係にあるのだろうか? おそらくカンボジアの証券法違反者は、CSECが司法警察と同じ権限をもつのだから、CSECから「呼び出し」を受けて、そのまま拘留・逮捕されることもあるのではないか? ベトナムはどうか?

 カンボジアでもベトナムでも法律が制定されても、その実施は未経験。個々の具体的な事例によって判断されるのであろうと想像される。

 次回は、カンボジア証券法の第3章 証券の公募と発行を紹介する。

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2008年6月14日 (土)

ロータス投資運用会社提供「ベトナム経済ニュース(20)」:最近の金融事情

 ベトナム初の日系投資運用会社・ロータス証券投資ファンド運用管理会社が発表している月次レポートを以下で紹介する。sadベトナム通貨危機(ドン暴落)の懸念wobblyをモルガン=スタンレー社が発表し、ベトナム経済全体に対する不安を煽っている。私は、それが誤謬であると先週に指摘した。ロータス社の以下のレポートでも控えめな表現で、その発生の「確率が低い」と判断している。

 4月に若干の上昇を示した後、VN-Indexは5月内に引き続き下落しました。VN-Indexは20.73%と相当する522.36ポイントから414.1ポイントまで(20.73%)下がりました。HASTCも同様に169.11ポイントから119.31ポイントまで(29.45%)下がりました。OTC市場は上場市場よりもさらに激しく落下しました。

 5月の第3週末に投資家の一部が政府の政策に期待し、買い注文量が大幅に改善されましたが、市場全体の回復までには至りませんでした。

 現在、国内の多数の投資家は金・USD・VND預金に関心を向けていますが、証券市場が回復すれば、証券投資に向かう人々は少なくありません。

 各銀行のUSDの調達金利は年間7%強に達し、VNDの調達金利については年間14~15.5%が広く適用されています。国家銀行は、調達金利の上限を削除し、また基本金利を12%と規定し、調達金利および貸出金利は基本金利の150%を超えてはいけないこと(18%以下)を規定しました。これらのことによって、調達金利が再び上昇し、実際の貸出金利の上昇傾向が一旦止まりました。その経費を補うためいくつかの銀行は手数料を引き上げました。

 5月にベトナムの貿易収支赤字に関する情報が公表されました。さらにMorgan Stanley社が、ベトナムにおける高いインフレ率、低い外貨準備、貿易収支赤字の拡大などの兆候から、ベトナムがタイ国と同様に金融危機に陥り、また、もし金融危機が本当に発生するようであれば地域全体に影響を及ぼすだろうという内容の報告を発表しました。それ以来、為替自由市場におけるUSD高(=VND安)をもたらしました。

 しかし、弊社の私見としては、金融危機が起きる確率は低いと考えます。なぜなら、ベトナムの国際収支が直接投資、ODA、間接投資、越僑からの送金によって黒字化しています。また、ベトナムの証券市場が現在既に落下し、流動性も低いために、投資額を大量に引き上げることが困難な点は過去のタイ国と大きな違いです。さらに直接投資の資本を引き上げることも困難であり、それを実施する費用がかかるため、その発生の可能性も低いのではないかと思います。Goldman Sachs社や世界銀行などもベトナムに金融危機が起きないと述べました5月中の外国投資家の株式の買い越しは約7,730万USDであり、2008年の年初から計算すると買い越しは3.45億USDでした。

 国家証券委員会は、証券会社に対して監視と規制を強めています。特に抵当株(上場株・未上場株)の売却を注視しています。

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2008年6月13日 (金)

ホット一息、ベトナム初のヌード写真集の発刊:ハノイの新妻さんから

 最近、ベトナムに関して硬い話題が続いている。「ベトナム金融危機」と言われると、無視するわけにはいかない。ベトナムの「ドン安」が続いており、最近は市場レートで1ドル=1万8500ドン程度になっている。6月時点で1万6500ドン程度であったから、約15%の「ドン安」である。

 この主要な理由は、外国人が資金を引き揚げているのではなく、国内の投機的なドル保有や、政府による外貨準備の拡充の動きがあるためではないかと私は思う。外国人の国外へのドル持ち出しは厳しく管理されている。

 そんな中で、ハノイ在住の新妻東一さん(三進交易株式会社ハノイ駐在所長、日本ベトナム友好協会全国理事)からメールが届いた。http://toichi.niizuma.net/ ホット一息できる話題だ。

 外国人である私が、あれやこれやと外国で議論しても、ベトナムでは日々の生活が、いろいろ問題はあるにせよ営まれている。これは日本でも同じだ。当たり前のことだが、それを新妻さんは再認識させて下さった。

 新妻さんのHPでは「メディア評」が掲載されているのだが、今回は、heart04ベトナム初の芸術ヌード写真集heart04、写真家Thai Phien(タイ・フィエン)氏のheart01"Xuan Thi(Springtime)"heart01が取り上げられている。http://www.geocities.jp/tniizuma/mediarev.html

 ベトナムにヌード写真集があっても不思議でない。そういう時代になった。その写真集(インターネット上で公開)を一見して、これは注目されるだろうと直感した。セクシーとかエロティックというよりも綺麗なヌードである。ベトナムの「篠山紀信」?が広く日本でも紹介されることが望まれる。ベトナム人の間でも話題になっており、女性にも好評だそうだ。

 タイトルだけを読めば、ハノイの新妻(結婚早々の若奥さん)がヌードになったような誤解があるかもしれないが、そうではない。いつも新しい情報を頂戴する新妻さんのご健勝をお祈りしたい。 

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2008年6月12日 (木)

ベトナムにおける「インフレ戦争」勝利に向けて:中国からの教訓

 ベトナム政府は、インフレ抑制を最優先の課題と認識している。これまで「貧困撲滅」に成果を上げてきたにもかかわらず、インフレによって貧困層の拡大が懸念されているからである。国民の不満の増大は、政権維持の不安定性にもつながる。これは、ベトナムの国家としての競争優位性の弱体化を意味する。

 ではインフレ抑制のために何をするべきか。そのためには原因の究明が必要である。そこで中国の経験を参考にする。そのために次の論文を以下で紹介する。劉鳴「中国の経済発展とインフレーション―中国学界の見解と統計による検討―」経済研究論集』広島経済大学経済学会、第24巻第1号、2001年6月、pp.87-108。

 2001年までの「中国では、1949年10月の建国以来6回のインフレーションが発生している」。1950年代は「インフレーションは搾取階級の消滅に伴って永遠に存在することはない」(p.90)という学者の見解もあり、インフレがインフレと認識されなかった。当時の「中国学界のインフレーションに関する議論は経済学ではなく、「政治的立場」の問題になった」(同上)と指摘されている。(flairflair:今日のベトナムで、こういった認識は存在していない。)

 その後のインフレーションでは第6回目(1991-96年)が、今日のベトナムの参考になると思われる。「市場経済化の進展と価格改革の深化によって、1991年から物価がだんだん上昇し、ピークの1994年の小売物価指数は21.7%になって、建国以来最大のインフレーションは発生した」(p.103)。

 この時期は、「①1992年の鄧小平の「南巡講話」をきっかけにして、各地で争うように経済開発区が設立され、株式や不動産への投資熱が空前のブームになった」(pp.103-104)。「固定資産投資額の増加率は1991年の23.8%から一気に93年の61.8%になって、日本のバブル期に似た状況が発生した。また、投資需要は供給を上回ることによって、ディマンド・プルインフレの様相が現れた。②経済改革の進展に伴って、農産物買付価格、為替レートおよび名目賃金の変化が激しくなって、コスト・プッシュインフレの性格も強い」(p.104)。

 flairflair:ベトナムの今日のインフレーションでは、上記の中国で指摘された要因に加えて、国際的な商品価格の上昇(上記のコスト・プッシュインフレ)や外国人の直接・間接投資の急増(マネー・サプライ要因)も原因であると思われる。こういった複合的なインフレ要因の対応は単純ではない。私見では、政府が強力なリーダーシップを発揮し、思い切った施策が望まれる。政府の「思い切った」施策が、多くの国民を感動・安心させる。国民を感動させれば、政情は安定する。その結果、インフレという「国難」を克服できるであろう。

 このような中国のインフレに対して「政府の対策は以下の通りである。金融秩序の整頓、投資項目、不動産および開発区建設の全面的審査、物価管理責任制の実施、市場価格を主とする価格体制づくり、である。これによって、1996年の経済成長は9.6%、小売物価指数は6.1%となって、中国経済のソフト・ランディングが実現した」(同上)。

 当時の中国よりも今日のベトナムは、市場価格体制は普及していると思われる。したがって、かつての中国で見られた「隠蔽的インフレーション」(flairflair:政府が補助金を支出するなどして価格を統制し、市場メカニズム下ではインフレーションが発生しているにもかかわらず、強制的・恣意的にインフレーションを抑制する状態を意味する。)は、ベトナムで顕著でない。

 当時の中国では、為替レートが1991~93年は1USDが5元台であったが、1994年に8.6元に下落した。これもインフレーションを助長した。この意味で、ベトナム政府の為替管理の強化が望まれる。そのほか、この当時の中国政府の具体的な施策が必要な情報であるが、前述の論文では触れられていない。

 以上のような中国の経験と教訓が、そのままベトナムでは適用できない。より精密な比較分析が必要である。ただし中国のインフレ克服の実績それ自体が、ベトナムのインフレ抑制が不可能でないことを示している。ベトナム政府による「インフレ戦争」の勝利を期待したい。その勝利によって、健全な経済成長と株価上昇の軌道に乗ることができる。

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2008年6月11日 (水)

ロータス社・タイ社長のメールから:ベトナムの「生」の声

 ロータス証券投資ファンド運用管理会社のタイ社長とは2年以上のつき合いになる。才媛の奥様と1歳になろうとする息子さんがおられる。貿易大学の学生時代にベトナム国内数学コンテストで第2位になり、さらにシンガポールに留学。流暢で正確な英語には、いつも感心させられる。

 最近、彼とのメールのやり取りが頻繁になっている。ベトナム経済やベトナム株式市場の動向について、ベトナム現地の生の情報が欲しいからだ。その中の一部を以下で紹介する。

 越僑からのベトナム国内送金は、2005年に40億USD,2006年に48億ドル、2007年に55億ドル。2008年には65億ドルと予想されている。この数値は、銀行を通した公式の送金額であるから、非公式の送金を含めると2007年は約100億ドルとなる。私は公式で100億ドルと先日に指摘したが、ここで訂正しておきたい。

 株式市場の回復はいつになるか? 「価格の安い物は遅かれ早かれ上昇する」。当たり前であろうし、「遅かれ」では困るのであるが、ロータス社の投資方針が「長期」であるから、この視点は重要である。ベトナム経済や優良ベトナム企業の長期的・持続的な成長に懸念材料はない。この意味で、株価低迷の「今が買い」である。

 私も同席したことがあるが、契約期間1年以内を希望する短期志向の投資家に対して、新興市場において短期運用のリスクが大きいことをタイ社長は強調していたことが思い出される。ロータス社では最短でも2年間の契約期間であり、その延長も可能である。

 投資対象企業の収益性や成長性を分析し、会社訪問して経営者の考え方を確認する。こういった投資方針を彼は実践している。なお現在のタイ社長の主要な調査対象は国営銀行である。株価下落で、企業価値に比べて株価は割安になっている。ただし当然、個々の銀行の不良債権の多寡に留意しなければならない。

 私には、外国人投資家に対する銀行の株式所有制限・30%の緩和が、株価回復の契機になるように思われた。タイ社長によれば、こういった提案は実際になされたそうだが、当局の反応はないそうである。つまり、肯定も否定もない。株価低迷の継続や証券会社の経営破綻といった今後の状況に応じて、こういった規制緩和を含めた対策が実施されることは十分に予想される。

 すでに本ブログでカンボジアと比較して指摘したが、ベトナム証券法では、株式市場を国家が責任をもって管理することになっている。これまでのベトナムにおける投機志向・短期志向のマネーゲーム市場から、より安定した長期志向の市場に向けて、政府は試行錯誤をしながらも、徐々に誘導することを考えていると思われる。そのためには市場参加者や銘柄について量的な厚みが求められる。これは一朝一夕では難しい。

 こういった長期的なシナリオを読みながら、当面の潜在的な投資対象を考える。タイ社長が、ベトナム株式市場を先導する若き投資運用者であることについて私は心から応援したいと思う。

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2008年6月10日 (火)

カンボジアの証券法について(5):ベトナム法との比較

第9条 CSECの運営における長官の権力
 この法律の下で職務を遂行する目的で長官は次の権力を有する。
1.経済財務大臣の事前承認により、CSECの個別職員または他のどんな人物に対しても、どのような権力も委任できる。

2.CSEC長官は、この法律の下で違反が発生したと信じる理由があるなら、次の人の事情を調査するために職員を指名できる。
 a)認可もしくは公認された人。
 b)販売または引き受けのために証券を一般公開する人。
 c)証券が証券市場に上場もしくは値付けされる公開有限会社もしくは認可された事業者。
 d)他の人。

3.調査中に人々から証拠を集める。

4.CSECの委員長および委員に対して、推薦された執行のためのどのような行動も含めた調査結果を速やかに報告する。

5.検察官に対して犯罪の起訴を勧める報告を提供する。

6.認可された証券市場の監視を実施する。

7.この法律の下で違反を犯して有罪となり、CSECによって懲戒処分の対象となった人の名前と行動を公表する。

8.CSECによって付与された許可・認可・登録を停止または却下する。

9.この法律の第45条で規定された他の権力。(以下、続く)   

shineコメントshine:CSEC長官の権力は、以上のように絶大である。通常、官僚組織は機械的な単純反復行動に適応している。これが正しいとすれば、こういった官僚組織がカンボジア社会に最適なのであろう。ただし株式は、さまざまな要因が有機的に関係して影響を及ぼす市況商品である。そういった商品を官僚組織が的確に管理できるのかどうか。実際の「お手並み」を拝見したいし、それよりも前にCSEC長官の人選が興味深い。

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2008年6月 9日 (月)

ベトナム・ロータス社から緊急メッセージ:ベトナム通貨危機は心配ない!

 ベトナムが、1997年のタイ国のような通貨危機に見舞われるという憶測がある。これについて、すでに私は謬論であるとして反論した。越僑からの送金(約100億ドル)は、ベトナム国内に継続して滞留する資金であり、その資金の海外引き上げはありえないと指摘した。さらに通貨危機について、ハノイのエコノミストの見解を紹介する。筆者の求めに応じて、ロータス証券投資ファンド運用管理会社タイ(Nguyen Duc Tai)社長が回答した内容である。

 われわれの観点から見れば、ベトナムにおける通貨危機の可能性は少ない。なぜなら危機はしばしば「群衆効果:herding effect」によって起こるからである。それは、多数の人々が1つの方向に一緒に動くことであるが、そのような動きの理由が合理的かそうでないかは問題でない。

 多数の外国人のポートフォリオ投資家が、その保有証券を売却して、USDに変換して、それらを他国に持って行くならば、ベトナムで通貨危機は起こるであろう。しかし、ベトナムの証券市場は低い流動性によって低迷しており、多数の外国人ポートフォリオ投資家は長期志向であるから、これは起こりそうにない。事実、ここ数ヶ月に渡って(多くの他の市場で彼らは売ったけれども)、彼らは売りよりも買い越しであった。

 工場のような設備を所有する外国人直接投資家については、撤退する可能性は非常に小さい。それが容易でなく、高価だからである。(これは、ほとんどの投資者がその時に外国直接投資者であるので、ベトナムや中国が1997年の金融恐慌によって最も影響を受けなかった理由の1つである。当時のほとんどの投資家が外国直接投資家だったからである。)。成長するFDI・ODA・労働者送金は、増大する貿易赤字を相殺することに役立つかもしれない。

 貿易赤字の原因ともなっている輸入機械は、翌年には輸出拡大に役立つかもしれない。政府が強硬手段を取るならば、貿易赤字を減少させることもできた。またベトナムの短期負債は、GDPの約8.6%であるが、ゴールドマン・サックス社によって言及されたように、タイ国の数値は1996年においてGDPの約26.3%であった。

 ヘッジファンド(投機家)が、為替レートを政府が変動相場制にしてVNDが大暴落し、広範囲な影響の事前に先物契約するという予測に基づいて、ベトナムを攻撃するという可能性は小さい。なぜならベトナムは外国通貨の変動を厳格に管理しており、またベトナムは為替レートを変動相場制にする必要がないので、その実現はほとんどないためである。

 以上、われわれはベトナムで通貨危機が発生すると思わないし、より正確に言えば、通貨危機の可能性はわずかである。

shineコメントshine:ベトナム金融危機を回避するための最後の拠り所は、ベトナム政府が為替市場を管理しているということであるように思われる。ベトナムでは自国経済を守るために政府の仕事が残されている。食糧やエネルギーの価格高騰の原因が、世界的な投機マネーであり、その規制の必要性が指摘されている。ベトナムの米輸出の規制も、こういった投機マネーから国内市場を守るという趣旨であった。どのように市場に対して政府が関与するか。新自由主義に基づく市場経済の再検討が求められている世界の潮流の中で、ベトナム政府の動向は注目に値する。

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2008年6月 8日 (日)

カンボジアの証券法について(4):ベトナム法との比較

第8条 CSEC長官の職能
 CSEC長官は次の職能を有する。
 1.カンボジア王国における証券市場の発展・規制・監督の運営支援をCSECに提供する責任を持った担当者や幹部職員を監督する。

 2.法律と関連規制の修正提案を始めとするカンボジア王国における証券市場の発展・規制・監督に関するすべての問題について、CSECの委員長と全委員に対して、日常に報告および勧告する。

 3.証券公募の申請を審査し、この法律およびCSECが規定した他の規制の要件に適合する申請を承認する。

 4.非政府証券発行の申請に関してCSECに提出された情報開示書類を審査し、この法律と商業会社法に関連する他の規制の要件を順守させ、提出書類を承認・登録する。

 5.公開有限会社および一般投資家向けの非政府証券の発行が認可された事業者の活動に関する財務・非財務情報およびその他の情報が、証券市場に絶え間なく情報開示されていることを監督する。

 6.公開有限会社および一般投資家向けの証券発行が関連法の要件を伴って認可された事業者の法令順守を監視し、重大違反の場合には適切に執行するための行動を取る。

 7.証券市場・清算決済機関・証券保管所に関して、CSEC長官は次のことを行う。
 a)この法律とCSECが規定した他の規則や規制の要件を申請者が満たす場合、認可申請書を検査・検討し、許可証を付与する。
 b)認可された市場・施設または保管所の施行規則のどのような改訂についても検査・検討・認可する。
 c)認可された市場・施設または保管所の許認可業者の活動が、その認可書およびCSECによって規定された法律と他の要件を順守するように監視される。
 d)認可された事業主体の認可書の疑わしい重大な違反またはこの法律要件の違反について調査し、認可の停止もしくは却下を含めて適切に執行するための行動を取る。
 e)認可書の認可または却下の前にCSECの懲罰委員会において協議する。

 8.証券会社と証券会社駐在員事務所に関してCSEC長官は次のことを行う。
 a)認可申請書が検討され、この法律の要件およびCSECによって規定された他の要件を申請者が満たす場合、許可証が付与される。
 b)営業許可書の条件を順守について財務状況を含めて許可証保有者の活動を監視する。
 c)この法律と商業会社法における事業活動の要件の順守について監視する。
 d)証券販売業者や投資助言者が自己規制組織として活動する事業者であることを公認するために申請書を検討し、申請者が規定の条件を満たせば、このような公認を付与する。
 e)自己規制組織による法令順守をその公認条件の観点から監視する。
 f)許認可業者の許可証または公認証に関する疑わしい重大な違反 この法律の他の要件の違反を調査し、許可証または公認証の停止または却下を含めた適切な執行のための行動を取る。

 9.証券業の取引に関する非合法的・非倫理的・不適切な実務活動を探査して抑止するために、この法律の下で認められているあらゆる合理的な手順を取る。

shineコメントshine
 (1) 以上から、カンボジアにおけるCSEC長官の権力集中と激務が想像される。さらに次回で紹介する第9条は、長官の権力(Power)を規定している。

 (2)第9条の8のd)では、CSEC長官が、「証券販売業者や投資助言者が自己規制組織として活動する事業者であることを公認するために申請書を検討し、申請者が規定の条件を満たせば、このような公認を付与する。」と述べられている。
 この「証券販売業者」と「投資助言者」が、どのような業務と会社であるのか確認が必要である。この条文を素直に読めば、証券会社の他にも証券販売ができることが想像される。また「自己規制組織」とは、おそらく定期的な内部監査や監査会社による外部監査が実施される企業であろう。この具体的な内容も確認されなければならない。

 (3)証券の公募は、届出制ではなく許可制にしている(第8条の3)。この証券法では、証券市場における公募を規制しているのであるが、より一般の株式会社の設立や、株式の私募による売り出しは、おそらく証券法の規制下にあるのではなく、商業会社法の規制下にあると思われる。商業会社法についても検討が必要である(第8条の8のc))。

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2008年6月 7日 (土)

カンボジアの証券法について(3):ベトナム法との比較

 カンボジア証券法の第2章は、カンボジア証券取引委員会(以下、CSECと略記)について規定している。その中で注目されることは、第5条・6条・7条はCSECについて述べられ、第8条・9条はCSEC長官についての権力や職能について規定していることである。長官についての規定が詳細であるということは、それだけ権力が集中していることを想起させる。

第2章 ガンボジア証券取引委員会

第5条 カンボジア証券取引委員会の権限
 カンボジア証券取引委員会(以下CSECと略記)は、この法律下で設立され、法令下で任命された委員長と委員8名によって運営される。CSEC委員は5年間の職能を持つ。CSEC委員は任期満了前にその地位から解雇または移籍されることがある。CSEC委員は、その任期満了後にCSEC委員長の求めに応じて再任されることがある。

第6条 カンボジア証券取引委員会の構成
 CSECの委員長は経済財務大臣である。CSEC委員の構成は次の通りである。
 1.経済財務省の代表者1名。
 2.カンボジア国立銀行の代表者1名。
 3.商業省の代表者1名。
 4.法務省の代表者1名。
 5.閣僚会議の代表者1名。
 6.CSEC長官1名。
 7.有価証券専門家2名
 上記の人々は、その立場が中立的であり、経済財務大臣によって王立政府の長に対して選任・提案される。CSEC委員として服務する専門家は大学院の学位を保有し、有能であり、その任務遂行のための適当な資格を持つだけでなく、実務・企業経営・証券市場・法律・経済学・会計・その他の関連分野において1つ以上の経験を有する。

第7条 カンボジア証券取引委員会の職能
 CSECは次の職能を持っている。
 1.カンボジア王国における政府証券市場を始めとする証券市場を規制・監督する。
 2.証券市場に関する政策を施行する。
 3.証券市場・清算決済機関・証券保管所の業者に認可を付与する条件を策定する。
 4.証券会社および証券会社駐在事務所に認可を付与する条件を策定する。
 5.この法律の要件の遵守を促進および奨励する。
 6.認可された事業者の意思決定が委員・参加者または投資家に影響を及ぼす場合に上訴機関としての役割を果たす。
 7.カンボジア王国における証券市場発展のための政策策定を目的として、あらゆる有資格者に助言を求める。
 8.法令により規定された他の任務を遂行する。 (以下、続く)

shineコメントshine
 (1)CSECは、ベトナムでは国家証券委員会(以下、SSCと略記: State Securities Commission)に相当する政府機関である。ここで注目すべきは、たとえば証券会社の許認可権をベトナムではSSCがもっているが(下記の第8条の1のa))、カンボジアではCSEC長官が有している。カンボジアでCSECは「認可を付与する条件を策定する」(第7条の4)「審議機関」の役割でしかない。

第8条 国家証券委員会
 1.国家証券委員会は、財務省所属機関として以下の任務、権限を有する:
  a)  証券活動および証券市場に関連する許可証、承認証を交付、期間延長、回収すること;証券活動および証券市場に関連する変更を承認すること;
  b) 証券取引所、証券取引センター、証券預託センター、および各補助組織の活動を管理、監察すること;投資家の合法的な権利と利益に影響を及ぼす兆候がある場合に、証券取引所、証券取引センター、証券預託センターの取引活動、預託活動を一時停止すること;
  c) 証券活動および証券市場における苦情申し立て、提訴を監査、監察、行政処分し、その解決をはかること;
  d) 証券活動および証券市場に関する統計、予測を実行し;証券および証券市場の分野における情報技術の現代化を進めること;
  e) 証券部門の幹部、公務員、職員層の養成・訓練機関、組織を組織化し、提携をはかり;証券と証券市場に関する知識を一般に普及すること;
  f) 証券、証券市場に関する業務規定と、関連する書式に指針を示すこと;
  g) 証券および証券市場の分野における国際協力を進めること。
 2.国家証券委員会の組織と管理運営機構は政府が定める。

 (2)カンボジアではCSEC長官に権限が集中している。この権力の乱用を防止する意味で、それが証券法で明記されているとみなされる。他方、権限の集中が、汚職防止になるとも考えられる。たとえば権限が委員会に付与されると、その委員全員が汚職の可能性をもつことになる。もちろんベトナムがそうだと言っているわけではないが・・・。

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2008年6月 6日 (金)

カンボジアの証券法について(2):ベトナム法との比較

 カンボジア証券法は10章58条から成っている。ベトナム証券法が11章136条(2006年6月29日成立)と言うことを考えれば、非常に簡潔な法律内容と言える。

 さらにベトナムには、すでに本ブログで紹介した証券法施行細則(6章31条、2007年1月19日成立)がある。かつてベトナム国会の法律の「生産性」が低いという指摘があったが、このように比較してみれば、なかなかベトナムは健闘している。さて以下では、カンボジア証券法の第1章を紹介する。

第1章 総則

第1条 基本方針
 この法律の基本方針は、証券取引所・清算決済機関・証券保管所・証券市場において金融サービスを取引または提供する業者のみならず、公開有限会社あるいは証券発行を認可された事業者を規制することである。この法律は、投資の資金需要を満たすために、一般大衆すなわち証券投資家からの資本を動員することを通して、社会経済の発展に貢献する。

第2条 この法律の目的
 この法律の趣旨は次の通りである:
 1.一般投資家の法的権利を保護することによって、および証券の売り出し・発行・買い付け・販売が公正で整然と実施されることを保証することによって、カンボジア王国における一般投資家の信頼を深化・維持する。
 2.証券市場の効果的な規制、その効率性および整然とした発展を促進する。
 3.証券および他の金融商品の購入を通して貯蓄手段の多様化を促進する。
 4.カンボジア王国の証券市場における外国の投資と資本参加を奨励する。
 5.カンボジア王国における国有企業の民営化の促進を支援する。

第3条 範囲
 この法律は、カンボジア王国における非政府証券取引を対象としている。

第4条 定義
 この法律で使用される用語は、付記される用語解説において定義される。

shineコメントshine
 (1)第1条はobjective。第2条はpurpose。どちらも目的の意味があるが、前者を「基本方針」、後者を「目的」と邦訳した。また、カンボジア証券法は「非政府証券」を対象としてる(第3条)。このことは、政府証券つまり国債の発行は別途に規定するという意味であろう。

 (2)ベトナム証券法では、こういった基本方針や目的に相当する条文は、第5条で次のように記載されている。

第5条 証券市場育成の政策
 1.国家は、各経済セクター、人民各階層に所属する組織、個人が発展投資のために中長期の資金調達をめざして証券市場における投資と活動に参加することを奨励し、有利な条件を整える政策を執る。
 2.国家は、証券市場が公平・公開・透明・安全で効果的な活動を行うよう保証する管理・監察政策を執る。
 3.国家は、証券市場のインフラストラクチュアを現代化し、証券部門の人材を育成するとともに、証券および証券市場に関する知識を宣伝、普及する投資政策を執る。

 以上のように、ベトナムでは証券法において国家の役割や任務が明確に指摘されている。さらに人材育成・技術革新・普及宣伝にまで言及している。これに対してカンボジアでは法律それ自体の目的・趣旨が記載されるだけである。

 本来、人材育成や技術革新などは、民間証券会社が競争的に自由に行うことが市場経済とみなされる。これに対してベトナムは、国家がなすべきこととして法律で規定している。ベトナムが「法治国家」を指向しており、国家が市場を管理することを明記していると指摘できる。このことは、ベトナム証券法の第7条の1と2において、次のように述べられている。

第7条 証券および証券市場への国家管理
 1.政府は、証券および証券市場について統一的に国家管理を行う。
 2.財務省は、証券および証券市場の国家管理について政府に対して責任を負い、以下の任務と権限を有する:(以下、省略)

 以上、カンボジア証券法は、ベトナム証券法に比較して、国家管理の色合いが薄く、「自由度」が高いと特徴づけることができる。このことは、ベトナムより以上に「投機的」な市場が創出されると予想される。

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2008年6月 5日 (木)

海音寺潮五郎の史観からベトナム・カンボジアを考える

 海音寺潮五郎は、1977年12月に没しているが、今年になって文春文庫から『武将列伝』の新装版が出版された。その背景には、混迷する日本そして日本人についての再検討を必要とする社会的な要請があるのだと思う。

 乱世の時代・・・石油価格暴騰・物価騰貴・食糧危機・年金破綻・消費税率上昇・財政破綻・老舗ブランド(船場吉兆)崩壊・猟奇的殺人事件・官僚腐敗・政治家KY・・・現代日本の社会不安は増大している。こういった時代には、改革を進める強いリーダーが求められている。小泉元首相が「強いリーダー」とみなされた時代もあったが、その影響で今日の乱世が到来したとも言える。そのように考えれば、国民が待望する真のリーダー像を模索する試みがあってもよい。海音寺潮五郎の作品が、このような意味で最近再び注目されていると私には思われる。

 ここで私は、以上とは異なった問題意識から彼の作品『乱世の英雄』からの発想のヒントを指摘したい。それは、ベトナムやカンボジアといった発展途上国の理解や認識に新たな観点をもたらすように思われるからだ。

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 同書で海音寺潮五郎は次のように述べている。「歴史文学において、現代人の常識で、歴史時代を解釈して書く行き方は、日本では芥川、菊池、吉川氏等で、おわっている。こうした行き方では、もう何にも出て来ない。現代人としての常識を具えながら、歴史時代を歴史時代として書く行き方が、一つの新しい途だと僕は思う」(p.82)。

 「今日の科学智識に照らして、間違いであろうとあるまいと、当時の人々には、(引用者注:陰陽五行説を)信奉するだけの合理性を持っていたはずだ。・・・この点では、仏教の修法も同じだ。当時の人は信じ切っていたはずである。ぼくならば、その解釈の下に書く。そうすることによって、新しい歴史文学の途の一つが開けて行くと思うのだ。(引用者注:そうすれば)・・・陰陽道なども、単なる時世粧としての道具を脱してヌキサシならぬ有機的なものとなるはずである」(p.83)。

 「谷崎氏ほどの作家が、そして、国文学に対しては、あれほどの造詣のある人が、ここに気づかないのは、古典を、文学や、普通史学の目では読んでも、社会史または民俗学的に読むことをしないからである」(p.84)。

 かつて日本の株式市場を分析する場合、欧米流の「経営者=エージェント理論」を前提とする分析手法が尊重されていた。しかし日本の現実には、株式相互持ち合いという世界に類例を見ない株式所有構造があった。そこから日本型「会社観」(会社=共同体という意識)が醸成されてきた。欧米の最先端の分析視点が、日本で適用されないことは当然であった。

 ベトナムやカンボジアなど途上国の社会経済の現状について語る場合、日本人もしくは欧米流の価値観や論理で理解し、それに基づいて課題を指摘することは比較的容易である。また、そういった分析が「鋭い」とみなされてきた。そしてベトナムに「警鐘」を鳴らしてきた。ベトナム人留学生も、そういった分析の訓練を留学先で受ける。それがベトナム「近代化」の進展とみなされた。

 しかし上述の日本と同様に、ベトナムやカンボジアには独自の現実があり、独自の価値観がある。それを無視した現状分析はありえない。しかし、それを無視・捨象して、先進国の価値観や論理で途上国の「現状」を説明し、そこから「教訓」をわれわれは指摘してきたのではないか? それらは、現地を無視した「机上の空論」ではなかったのか?

 そのようにならないためには、たとえばベトナムを現状分析する場合、ベトナム人に成りきる。ベトナム人の価値観や慣行や思考方法を念頭におく。このような心がけや姿勢が不可欠である。そうすれば、海音寺が言うように、その分析結果は「ヌキサシならぬ有機的なもの」になるのではないか?

 以上のような意味で、モルガン=スタンレー社の最新レポートが発表した「sadベトナム通貨危機説wobbly」(1997年の「アジア通貨危機」がベトナムから再発するという趣旨)は謬論である。私は全文を未読であるが、比ゆ的・感覚的に言えば、アメリカがベトナム戦争で負けた理由を教訓としていないレポートだ。単純な数字で表現された兵力分析だけでベトナム戦争の勝利を判断したアメリカの誤謬が繰り返されている。

 たとえば越僑(海外在住ベトナム人)からのベトナム送金が、40億ドル(2006年)から100億ドル(2007年)に増加し、それがインフレの加速要因とみなされている。(flair注:この金額は公式送金額。実際には、この数倍の送金額と想像されている(JETRO投資アドバイザー荒川研氏からの情報)。

 これらの資金が、外国に引き揚げられると、確かにドンは暴落する。確かにそうであるが、しかしこれらの資金は、親族に対する送金である。こういった資金を引き揚げることは一般に考えられない。国家予算に迫ろうとする金額が国内に流入して、インフレにならないはずがない。これらの資金が落ち着き先を求めてベトナム国内を渉猟しているのが現状であろう。それが安定すれば、当然インフレも収拾され、株式市場も回復するであろう。

 ベトナム人に成りきってベトナムを考える。研究でもビジネスでも留意するべきことである。ただし、この「成りきれる」ことが、どの国の場合も共通して国際理解のための最大のハードルと言えるであろう。

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2008年6月 4日 (水)

ベトナム株式市場:証券口座数が20倍になっても不思議でない!

 江上剛『最新アジアビジネス熱風録』(文藝春秋社, 2008年, p.214)によれば、中国の証券口座数は1億口座に達していると言う。時価総額は2007年3月に10兆元であったが、2007年8月には20兆元(約300兆円)である。東証一部上場企業の時価総額が490兆円であるから、それに迫る勢いであると指摘されている。

 中国の人口を13億人とすれば、人口の13分の1の証券口座が開設されている。ベトナムの人口を8,500万人とすれば、その13分の1はの653万人。これだけの証券口座数がベトナムにあっても不思議ではない。

 現在のベトナムの証券口座数が30万を超える程度であるから、これから証券口座が20倍以上も増える余地がある。このように考えれば、ベトナムの株式市場の本格的な成長期は、これから始まる。一般国民の所得水準が上昇し、それに伴って証券口座も増えることは確実である。

 他方、現在の証券会社数は80社であるが、最近の株価低迷によって収益悪化の会社も多いと聞こえている。ベトナム株式市場の将来の成長は間違いないのだが、証券会社の性急な設立は過剰な競争を招く。当面、経営体力のない証券会社の統廃合が予想される。

 かつて建設ブームと言えば、レンガ会社が多数設立され、過剰供給となり、それで経営不振となった。また、人気のある海鮮料理の店があれば、それを模倣した海鮮料理店が周辺に乱立する。シルクの店もそうだ。証券会社の設立も、これと同類である。多数乱立の企業の中から市場がそれらを淘汰する。これがベトナム市場経済の特徴とみなすことができる。カルテル・談合・行政指導と無縁の競争経済は、日本以上に市場競争メカニズムが機能していると言えるかもしれない。

 

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2008年6月 3日 (火)

就職戦線「第2ラウンド」を迎える学生にメッセージ:(株)ダイエーからの教訓

 (株)ダイエー人事・人材開発本部・人事企画部の久保敦氏に、流通科学大学で講義していただいたことは先週の本ブログで紹介した。そのご講義の中から以下では、小売業で求められる人材についてのメッセージを紹介する。

 久保氏は、ダイエーが経営不振に陥った原因について、人事部門の立場から次のように総括された。「新たなチャレンジを正しく判断・指揮できる人材育成を怠ってしまった。「お客様のニーズ」と「ダイエーが目指したい姿」にギャップが生じてしまった」。そこで「ダイエーは、「原点」に立ち返り、もう一度、お客様から支持をいただける店舗を目指し」たい。

 このような反省に基づいて久保氏は、小売業で働くことの意義を次のように指摘された。これらのことは、小売業に就職を希望する学生のみならず、すべての業種に共通して必要な能力であると思われる。

 6月は就職活動の「第2ラウンド」である。すでに内定をもらった学生は「第1ラウンド」の勝者である。勝者に「奢り(おごり)」は禁物である。長い人生から見れば、それは初戦のわずかな勝利にしかすぎない。他方、現在も就職・求人活動は依然として継続している。就職未内定の学生は悲観する必要はない。これから改めて自己点検して、自己の「売り出し戦略」を再構築すればよい。

 さて「小売業は接客業か?」と問えば、「はい」と答えるだけでは不十分である。正しくは「小売業は接客する」のである。「小売業の中に接客業も含まれる」ということが正しい認識である。このことは、「接客が好きだ」という理由だけで小売業に就職を希望することが、必要ではあるが、十分ではないということである。

 それでは小売業に必要とされる能力は何か? 久保氏は次の2点を指摘された。

 (1)変化対応力:お客様のニーズに如何に応えていくか? お客様の求めているものをどれだけ把握できるか? お客様に支持されるであろう提案をどれだけできるか?
 (2)戦略立案力:どのように競合他店と戦っていくか? どの店と戦うのか? どこで「差異」をつけるのか? (注:これら課題は、競争戦略論が対象とする基本問題である。)

 「常に新しいものを求めるお客様のニーズに対応することが社会貢献になり、そのことが同時に自己成長を実現することにもなる。これが小売業である」。この指摘は、特に小売業に限られていない。新しいイノベーション(技術革新)を追求するという観点から言えば、そべての業界に共通していると私は思う。それでは小売業の特質は何か?

 (株)ダイエー・川戸義晴・代表取締役会長((株)イオンモール前社長)は、久保氏によれば、次のように述べている。「物事には達人がいる。もし「人間の達」がいるとすれば、それは小売業を経験した人であろう。小売業は、お客様に対する1対1の対応の連続である。お客様は口頭では言わない。直接に何も言わないが、お客様の行動・態度・目線を見れば、お客様が何を考え、何を求めているかが理解できる。お客様を読む。すなわち「人間を読む」。これができれば、「人間の達人」である。その領域に最短で達することができる人は、日常にお客様に接する小売業に従事する人である」。

 「人間の達人」の領域に達する。これは、すべての企業経営者に求められることでもある。銘記すべき名言である。以上、貴重なご講義を賜った久保氏に改めて感謝を申し上げたい。

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2008年6月 2日 (月)

カンボジアの証券法について(1)

 カンボジアでは2009年半ばに経済財務省の傘下でカンボジア証券取引委員会CSEC:Canbodia Securities Exchange Commission)を設置する計画である。その準備として、2007年9月12日に「非政府証券の発行と売買に関する法律」(以下、証券法と略記)が国会で成立した。

 以下では、この法律についてベトナムの「証券法」との対比させることによって、その特徴をいくつか指摘する。出所は、カンボジア証券法については、同国の経済財務省から提供された非公式の英語版、ベトナム証券法については、日越経済交流センター・伊藤幹三郎氏の翻訳に依拠している。なおベトナム証券法は、同センターから『ベトナム法令集』として近刊予定である。

 土曜日の勝悦子先生(明治大学)のご指摘では、カンボジア経済の水準では銀行システムの整備が優先されるべきであり、証券市場は時期尚早ということであった。合理的な経済判断から考えれば、私も賛成である。ただし、カンボジアにもANZ銀行など外資系銀行が合弁形態で進出しているし、いくつかの財閥傘下の銀行間の競争も存在している。これまでに銀行倒産もあるが、徐々に銀行システムは安定しているという状況だと私は理解している。

 それにしても確かに時期尚早と思われる証券市場の開設について、カンボジア政府には政治的な判断があったと想像される。隣国ベトナムが、証券市場の開設によって、中小民間企業の経済活動を活性化し、さらに国営企業の株式会社化や民営化を促進した実績があるからである。

 すでにベトナムが経験したように証券市場がマネーゲーム化し、その後に株式市場が低迷したり、過度のインフレに苦悩したりする多数の「経済リスク」が伴うとしても、証券市場が経済活動を活性化することは間違いない。ベトナム・ラオス・カンボジアを民間企業のみならず、日本政府も「開発の三角地帯」と呼んで注目をしている。この機会に、カンボジアで株式市場を開設すれば、大量の資本動員が期待できる。

 おそらく隣国ベトナムからのカンボジア株式投資がありうる。さらに韓国がカンボジア証券市場開設のためにODA支援している。韓国からの投資は、すでに不動産部門で顕著であるが、それが株式投資にも向けられることは必至である。少なくとも株式市場開設の当初は順調な成長が予想される。

 その後の展開は、ベトナムの実例が参考になるであろう。すでにカジノが公認されているカンボジアでは、過剰なマネーゲーム市場が予想されるのであるが、それが市場メカニズムである。その調整・管理・規制が、上記のCSECに期待される。では、次回からカンボジア証券法の条文を検討してみよう。

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2008年6月 1日 (日)

本場ベトナム料理の味:新宿を歩く

 日曜日。10年以来ベトナムの仕事で特別にお世話になっている竹岡さん(http://www.tulip.sannet.ne.jp/t-takeoka/)とベトナム料理で昼食の時間を過ごした。竹岡さんは群馬県在住。サンヨーベトナム社の創業時の社長である。

 ベトナム料理店フォンベト(「ベトナムの香り」の意味。この「フゥォン」の発音は極めて難しい。参照:http://www.huongviet.jp/)は、西新宿の本店と歌舞伎町店の2店舗ある。このレストランは本場の味。まさにAクラス以上。竹岡さんも言われるのだから保証付きである。

 生春巻き(ゴイクン)のライスペーパーは適度の柔らかさであり、それに巻かれた野菜と海老はベトナム料理の淡泊さを実感させてくれる。甘酸っぱい海老スープ(カインチュアトム)もベトナムの味付け。ご飯を入れて食べたくなる。ただしフォー(米の麺のうどん)の味付けは、私にとってやや甘かった。次は是非、夕食で鍋料理を試してみようと思う。ベトナム料理店は大阪にもあるが、非常に残念ながら、この店のように再訪したい店は未だない。

080601_14450002 その後に1人で東京・新宿の「歩行者天国」を歩いた。今年4月1日に正式に経営統合された伊勢丹と三越が斜め向かいに位置している。伊勢丹は百貨店として経営されているが、三越は新宿ALCOTT店となり、ルイヴィトンやティファニーが1階に巨大店舗を構えている。経営統合後の両店舗の「棲み分け」が実感できた。

 同じように経営統合した大阪・梅田駅の阪急百貨店と阪神百貨店についても、より明確なコンセプトの棲み分けが必要であるように思われた。相乗(シナジー)効果のためには、それぞれが個性を主張し、それらが補完・統合されるようなコンセプトが必要であろう。新宿を歩いて、大阪のことを考えた。

 しば080601_14350001らく歩くと、アデランスのADビルが右手にあった。同社は、先週の株主総会において経営陣の退任が予想外に決議された。アデランスは、大学で私が担当する「企業論」でも事例として学生と議論したばかりである。外国投資ファンドの日本株取得によって、これまでの株式持ち合いを典型とする「なれ合い」経営が通用しなくなったという趣旨である。

 最近話題の企業を直接に見ることができる。さすがに東京である。もちろ ん見るだけだから、どうということはないのだが、イメージの広がりが違う。さらに必要があれば、すぐに話を聞きに行ける。そうでなくても、特に流通小売企業の研究では「売り場」を歩いて見るだけでも勉強になる。訪問前に予約して企業訪問するという必要がなく、まず現場を見る。そして現場から学ぶ。これが「実学」の基本であると思う。

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