« 神戸と東京で仕事:ベトナムを巡る人々 | トップページ | ベトナム共産党について私論(1) »

2007年12月 7日 (金)

ベトナム国営企業の株式会社化と財閥解体:「所有と経営の分離」を考える

 昨日の小林和子先生のセミナーで、ベトナム証券会社幹部の一人から次のような質問があった。

 「財閥解体で株式が民間に売り出されたのは、ベトナムの国営企業の株式会社化に似ている。財閥解体の前と後では企業経営に変化がありましたか?」

 この質問は、なかなか鋭い。日本の財閥解体を理解し、それを通して、ベトナム国営企業の民営化を連想する。さすがに証券会社の経営幹部である。

 持株会社(財閥の場合)または総会社(ベトナムの場合)が株式を所有し、その前者の所有者は財閥家族、後者は政府省庁であった。そして、これらが会社を支配していた。明らかな「所有者支配」の状況である。

 これに対して株式が広く売り出されると、一般の個人株主に株式所有が分散する。このような財閥解体後の企業経営の状態は「経営者支配」とみなされた。株式分散によって「所有と支配の分離」が生じる。これは言い換えれば、大量の株式を所有する安定株主が不在であり、株式取得を通した「乗っ取り」の可能性が高まったことを意味する。

 それを阻止するために経営者が考えた手段が「株式持合い」であった。また取引先や金融機関に安定株主として株式を所有してもらうことであった。このように「経営者支配」の下で経営者が自らの地位を維持するために、「株式持合い」すなわち「安定株主工作」が進行していった。

 ベトナムの場合、国営企業の株式会社化といっても、依然として政府が株式の過半数を維持している。したがって「経営者支配」という状況は未だ生まれていない。国家所有の比率が100%から過半数に低下したという程度であり、国家による「所有者支配」は維持されている。これが財閥解体との大きな相違である。ベトナムでは未だ「所有と支配の分離」はしていない。国営企業でも民間企業でも事情は同じである。

 このような状況でベトナム国営企業の経営効率化を促進するためには、専門的・職業的な経営者の養成と、それらに対する政府株主からの規律付けを明確にすることである。経営目標を経営者が明示して、それが達成できなければ、株主総会において経営者は更迭される。株主としての政府と経営者としての専門家を分離する。政府が経営をするのではなく、政府は株主に徹する。経営は専門経営者に任せる。これは「所有と経営の分離」である。

 この専門経営者は外国人であってもよい。政府は最大株主として経営者を任免できる限り、所有者支配=政府支配は維持されている。ベトナム政府は国家資産を保持できるのだから、何も心配することはない。有能な経営者に経営を任せればよいのだ。

 おそらく近い将来、ベトナム国営企業の経営を立て直すために、民間の専門経営者が起用される時代が来るであろう。その経営者が外国人であっても、まったく不思議でない。企業経営のことは専門経営者に委任する。国営企業の改革と株式市場の発展に伴って、ベトナムにおける新たな企業統治の機構が確立されなければならない。昨日のセミナーで、こんなことを考えさせられた。

 なお国営企業の経営者の月額給与の上限を1,500ドルにするという提案がある。株式会社の場合、株主総会で自由に決定されればよいし、上限1,500ドルというなら、内外を問わずに公募すればよい。あくまでも国営企業の支配権は国家に属するのであるから、政府は自信をもてばよいのだ。しかし、これは時期尚早の意見かもしれない。どのような改革にも時間がかかるが、その時間的余裕がベトナム国営企業にあるのかどうかが判断の決め手である。WTO加盟後のグローバル経済競争は「待ったなし」である。

|

« 神戸と東京で仕事:ベトナムを巡る人々 | トップページ | ベトナム共産党について私論(1) »