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2007年7月 7日 (土)

ベトナム株の報道に少し異論:『日本経済新聞』長谷川記者(ハノイ)の誤解

 『日本経済新聞』2007年7月7日(土)の夕刊記事「市場の話題」において、「ベトナム株に需給悪化懸念:相次ぐ大型IPOに波乱の展開も」とハノイの長谷川岳志記者が報じている。

 私見では、この記事に事実誤認がある。ベトナム株式投資に関係する者として、この記事は広く誤解を与える恐れがあるので、ここで異論を3点を指摘しておきたい。

 (1)「6月上旬に実施された国内最大手のバオベト(保険総公社)の上場に先立つIPO(注:新規株式公開)が期待外れとなったことだ。---平均落札価格は73,910ドン(約560円)と、市場の事前予想の半分以下にとどまり、さらに高値で落札した個人投資家の多くが手付金を放棄してでも購入を見送る動きが出た。」

 そもそも入札価格が異常に高すぎるのだ。今朝まで拙宅に滞在していた「ロータス証券投資ファンド運用管理会社」のソン会長によれば、この最低入札価格は67,800ドン最高価格は20万ドンであった。しかし機関投資家筋の分析では、6万数千ドンが適正価格ということだった。ソン会長は、値下がりしているバオベト株について「今が買い時だ」と述べている。(注:ベトナムのIPO入札では、投資家1人が2つの価格での入札ができる規則になっている。)

 記事でも指摘しているように、「狼狽売り」しているのはベトナム人個人投資家だ。多数の機関投資家は冷静に株価を判断している。このような機関投資家の見解を紹介しなければ、報道記事としてはバランスを欠くように思われる。

 (2)「地元メディアでは、「将来、海外市場に上場し、大きな値上がり益が期待できると証券会社に踊らされた」などといった個人投資家の声を紹介し、今後IPOを計画している企業の資金調達計画に狂いが出るだろうと指摘している。」

 私見では、地元メディアを利用して、証券当局は、過剰な投資熱の個人投資家を沈静化させようとしている。すでに筆者が指摘したように、ベトナム人個人投資家は「衝動買い」と「狼狽売り」を繰り返す。また、その多くは短期投資(長くても3ヶ月)志向であり、証券に関する知識も十分でない。こうした個人投資家が、たとえばベトナム石油採掘(PVD)社の株価収益率200倍といった異常値を生んだ主役なのだ。これらの個人投資家の過熱を冷やすことは、株式市場の「バブル化」=「マネーゲーム化」を抑制するために証券当局として望ましいことだ。

 (3)証券業界を中心に大型国営企業のIPOの時期をずらすべきだとの議論が高まっているが、国営企業の民営化の遅れを懸念している政府側は「計画通り実施する」(国家証券取引委員会)との姿勢だ。」

 IPOの時点で高値入札し、その後の店頭市場での株価が低迷し、さらにその後の上場後も株価は横ばいを続ける。このような現象は、何度も言うが、IPOの入札価格が高すぎるのだ。この先例はサコムバンクだ。おそらく今後、IPO入札価格が適正価格に近づくのではないか。今回のバオベトからの教訓は、「衝動買い」・「うわさ買い」(根拠のない風評で株式購入する。筆者命名)の個人投資家が市場から退場してくれることだ。それが、株式市場の健全な成長を促進することになる。国家証券委員会にしてみれば、バオベトの事件を契機にして、機関投資家が適正な価格で株価を主導してほしいと考えているのではないか。したがって当然、今後のIPOは「計画通り実施」される。

 (4)「今後のIPO動向次第で株式相場全体が波乱の展開となることを予想する声も増えている。」

 外国投資ファンドの株式需要は旺盛だ。現在も適当な投資先がなくて、おそらく日本円で数百億円規模の現金保有している投資ファンドが多数ある。その理由は、現在は高値過ぎて株式が購入できないか、または外国人の所有枠(49%)の上限になった上場銘柄が増加しているからだ。他方、ベトナムの企業や機関投資家も潤沢な資金の運用先を求めている。したがって国営企業の株式会社化やIPOが進行しても、その「受け手」に不足はない。これまでの個人投資家による入札の異常な高値ではなく、企業・株価分析に基づいた適正な価格での入札が期待される。したがって「波乱の展開」はありえないと私は考えている。

 私は、以上のように考えているが、果たして今後の株価動向はどうか。長谷川記者の記事と私見の仮説が、今後の事実で証明されるだろう。

 なお、ロータス社のソン会長によれば、同社もバオベトのIPOに入札したが、最低価格から数千ドンの差で入札に「失敗」した。しかし現在は、その価格よりも下落しているからこそ、「今が買い時」と判断されている。前述の記事のように、バオベト自体は悪い会社ではないのだ。ただ株価が異常に高すぎる。同様のIPO失敗が同社には過去に何度かあった。このような経験を考慮すれば、ロータス社の入札価格が、その企業の適正株価と判断してもよいと私には思われる。バオベトの入札失敗は、ロータス社の高い分析力を証明している。

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