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2007年4月26日 (木)

今さら何を言ってるの?:『朝日新聞』(大阪版・4月26日)のベトナム記事を読む

 「ベトナム進出企業、日系企業が二の足」、「投資熱の舞台裏:工業団地に寒風」、「すそ野未発達・部品供給安定せず」。本日付け『朝日新聞』朝刊(大阪版)の見出しだ。

 ベトナムにおけるすそ野産業(=原材料・部品産業)の未発達は今に始まったことではない。たとえばベトナム工業省に対して、政策研究大学院大学の大野健一教授は何度も提言しており、最近では、Kenichi Ohno,ed.,Building Supporting Industries in Vietnam Vol.1、Vietnam Development Forum,2007. という報告書を発表している。ハノイのベトナム開発フォーラムは、http://www.vdf.org.vn/。同じく東京の情報は、  http://www.grips.ac.jp/vietnam/VDFTokyo/index.html を参照。

 これまでベトナムでは、トヨタやホンダが国内の部品調達比率を上げるために懸命の努力をしてきた。それに伴う税制優遇があったからだ。これは、「すそ野産業」の誘致促進に貢献した。しかし、2004年12月に発効した「日本ベトナム投資協定」の中に「パーフォーマンス要求の禁止」が盛り込まれた。この「パーフォーマンス要求」とは、この場合、国内調達比率を上げるという成果(=パーフォーマンス)を達成すれば、税金を優遇するというベトナム政府の要求を意味する。

 この要求が禁止されたということは、ベトナム国内で部品生産する「誘引」が減少する。部品を国内生産しても輸入しても政府は関与しないという意味だ。もし日本政府が、本当にベトナムのすそ野産業を育成するなら、パーフォーマンス要求は存続・延長するべきだ。これは、ベトナムのWTO加盟の有無とは無関係に可能である。

 『朝日新聞』によれば、日本企業関係者は「周辺ですそ野産業が発達していないので、部品供給が安定しない。進出しずらい」と述べている。これは事実であるが、その改善を本気で考えるなら、上記の「日本ベトナム投資協定」の見直しが必要だ。『朝日新聞』の記者は、この矛盾を突くべきだったのだ。

 ベトナム政府は、すそ野産業の育成を考えてきたのだが、日本からの「パーフォーマンス要求の禁止」によって、それが頓挫したというのが現実ではないか。さらに未整備な状況で進出するからこそ、より多くの先発者行動の利得を獲得できると考えるべきである。すそ野産業が整備されたことが絶対の条件なら、中国やタイの進出が望ましいのは当然だ。そういった国と、ベトナムの今後の成長可能性との比較で進出を考えることが現実的だ。

 すそ野産業が未発達のベトナムは、今後、韓国のような経済発展の道をたどる可能性もある。ベトナムは組み立て産業に特化し、原材料部品は、整備が進む東西回廊や南北回廊を通して中国やタイから陸路で輸入する。それを日本や欧米に輸出する。ちょうど韓国自動車のエンジン部品が日本から輸入されていたのと同様の仕組みだ。

1_3  しかし私は、やはりベトナムは部品生産に重点的に取り組むべきだと思う。ホーチミン市のJUKI(工業用ミシン)が、ベトナムで部品生産に特化して成功していることを想起すればよい。ベトナム人の粘り強さや器用さは、精密部品や高品質部品の生産に向いている。ベトナムの部品生産のためには、日本の中小企業の進出が不可欠だ。他方、加工組み立て産業は、やはり中国に優位性があるのではないか?

 写真は、ホーチミン市のJUKIにおける「ロスト=ワックス鋳造」の部品生産である。

 東京の大田区や大阪の東大阪市を始めとする中小企業が、より以上にベトナムに関心をもってほしい。日本で不可能と思われたことが実現するという夢を、まだまだベトナムは見させてくれる国だ。

 『朝日新聞』は、「ベトナムブーム」の「明」の部分に対して、その「暗」の部分を指摘している。これは何事にも重要な観点だ。しかし、すそ野産業の育成を推進しようとする立場からすれば、「今さら何を言ってるの?」という印象だ。

 私は、ロータス証券投資ファンド運用会社による「すそ野産業育成ファンド」の組成を提案している。ベトナム・日本双方の投資家による資金で有望なベトナム中小企業に投資し、日本の専門家が技術移転するという計画だ。この会社が株式公開して上場すれば、投資も回収できる。ODA(政府開発支援)のスキームでは適用されない民間のベトナム支援だ。このようなことの実現が、私の夢だ。

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