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2007年2月 5日 (月)

ベトナム株式投資のリスク:日本からの教訓

 大学の研究室を大掃除していたら、次の論文が「発掘」された。若尾晃弘「株価高騰と日本経済」『調査月報』484号、1987年11月、東海銀行。(注:この発掘とは的確な表現である。私の大学院生時代からの膨大な資料の中から偶然に発見されたからだ。)

 この調査月報は、バブル崩壊を予想して勇名をはせたエコノミスト・水谷研治氏が執筆代表者である。確かに、この論文が執筆された1987年は、株価上昇が顕著になった1986年から株価が最高値をつけた1989年末までの過渡期である。「バブル経済」の真っ最中の日本の現状は、今日のベトナム株式投資のリスクを検討する手がかりになると思われる。そこで、この論文を簡単に抜粋・紹介し、ベトナムに対する教訓を指摘する。

 株価の高騰は、家計・民間企業・金融機関・政府という経済主体の資産増加・収益(税収)増加をもたらす。これらのことは、個人消費を押し上げ、設備投資意欲は高まり、減税の税源は確保され、公共投資は増加する。総じて株価高騰は経済成長率を上方に修正する。

 そもそも株式の価値は、次の2つの方法で求められる。(1)企業の配当や配当の源泉となる利益を基礎にする考え方。(2)企業の資産価値を基礎にする考え方。前者の立場に立った投資尺度には、株価収益率(PER)があり、後者の立場からは、株価純資産倍率(PBR)がある。

 PER=株価/1株当たり利益、
 PBR=株価/1株当たり純資産額。

 PERが高いと言うことは、それだけ株式の人気が高いことを示しているが、あまりにも高くなり過ぎると、投資尺度としては使用できない。これはベトナムでもそうかもしれない。

 1987年6月末のPERとPBRの水準は、次のようになる(上記論文、表6、17頁)。なお、この利回りとは、株式配当利回り=1株当たり配当金/株価。

        PER(倍) PBR(倍)  利回り(%)
 日  本   58.2    4.90    0.5
 アメリカ   17.8    2.14    3.0
 イギリス   15.7    2.40    3.2
 西ドイツ   14.7    2.29    3.1
 フランス   16.3    2.04    2.6
 香  港   17.7    3.20    2.8
 世  界   22.7    2.61    2.2

 このような株価高騰の原因は、「日本企業の業績や成長性が評価されて実現されたものではなく、金融情勢・為替相場などの極めて不安定な基盤のうえに成り立っている脆弱なものである可能性が高い」。さらに「我が国の株価の水準は企業の業績によっては説明できないほどに高くなっているだけに、高水準の株価を支えている条件に何らかの変化が生じた場合には、隠されていた株式投資のリスクが顕在化する可能性がある」と注意が喚起されている。

 「バブル経済」の最中であるにもかかわらず、このような警告の先見性は注目に値する。そして株価暴落のリスクの程度を測定するために、家計・企業・金融機関の資金運用に占める有価証券および株式の比率の動向が調査される。その結果、特に金融機関の比率が増加していることが明示された。このことから、金融機関がバブルを煽ったことは確かである。

 この論文の結論は次のようなものであり、その後にそれが的確であったことが証明された。「株価の高騰がもたらす経済成長は、株式を購入もしくは保有する投資家が株価下落のリスクを負担することによって実現されている一時的な現象にすぎない」。「株価下落が現実のものになった場合には、株価高楼によって景気が回復するメカニズムが逆にはたらくことにより(すなわち株価の下落が個人の金融資産残高の減少や企業収益の悪化を通じて個人消費や設備投資に負の影響を与えることにより)、これまで実現された経済成長は帳消しになる可能性が高い」。

 そして、「株価高騰を本当の経済成長に結びつけていくためには、金融資産への投資だけでなく、株高に伴う資本コストの低下を生かして積極的な研究開発投資を行うなど、日本企業成長の可能性をより大きなものとしておく努力、すなわち日本企業の実力を高水準の株価に見合ったものとしておく努力が必要とされるのではなかろうか」と最後に提言される。

 以上の論文からのベトナムに対する教訓は自明である。単純に「日本」を「ベトナム」に代えればよい。ベトナムにおいても、株式公開・株価上昇による低い資本コストの調達資金を利用して、国際競争力を早急に強化することである。そのためには設備投資・研究開発はもちろんであるが、ベトナムでは人材開発が重要であると私は思う。

 そこで、人材育成のための思い切った投資をする気が経営者にあるのかどうか。また、その支援を積極的に受け入れる意欲があるかどうか。さらに経営者の浪費癖・成金趣味が過剰ではないかどうか。企業を訪問して経営者にインタビューして、これらの点を確認してから投資先を選定する。これがベトナム株式投資の重要点である。また、マクロ経済分析のみならず、PERやPBRの時系列データや国際比較データの収集・分析も不可欠であろう。

 特に私は、同業種の企業のPBRをタイもしくは中国と比較することを提案したい。ただし、この場合はベトナム企業の財務データの正確性・信頼性が問題となる。しかし、この問題は日本でも同様である。今日の日本でも粉飾決算が事件になっている。この意味で、企業財務データは一つの目安と考えることが適当かもしれない。

 いずれにせよ、当たり前の分析を日本でもベトナムで行う。その客観的な分析結果に合理的に従う。日本では、それができなかったからバブル崩壊の傷を深くしたのではないか。果たしてベトナムではどうか。社会主義を志向するベトナム政府の論理性・合理性は、意外と株価高騰のリスクを乗り切るのではないか。この私見の適否は、これから実証的に明示されるだろう。

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