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2006年11月 2日 (木)

ベトナムについて帝京大学教授・高山正之氏は何を言いたいのか?:『週刊新潮』2006年11月9日号(p.158)の妄言

 ベトナムについて一般の人々の関心が高まっている。神戸・三宮駅前の「ミント神戸」にもベトナム料理店が開店したし、ベトナム直接投資も件数で過去最多となっている。また、ベトナム株式投資も好調だ。日本とベトナムの政府間ではEPA(経済連携協定)の協議が開始される。

 これらのことは日本とベトナムの友好関係にとってよいことだ。しかし、ベトナムの歴史や日本との関係について詳しく知っている日本人は少数であろう。それをよいことにして、研究者らしからぬ妄言を堂々と広言する大学教授がいる。これには、自称「ちょいワル教授」の私も驚いた。この驚くべき大学教授は、帝京大学の高山正之氏である。

 同氏は、元産経新聞社の編集委員。私は拙著で、ベトナムに関する古森義久氏の無責任な言説を批判したが、古森氏も産経新聞に所属している。産経新聞は、どうもベトナムに対して偏見と歪曲があるように思えてならない。

 高山教授は次のように述べる。(引用開始)「ハノイはこの前年(引用者注:昭和19年)洪水と旱魃に見舞われ多くの餓死者が出ていた。「日本軍は炊き出しをし、明号作戦(日本軍が仏印政府を倒した)のあとは仏政府のコメ倉を開いて食糧を放出した」と当時、高射砲部隊にいた落合茂氏は語る」(引用終了)。

 さらに高山教授は次のように指摘する。(引用開始)「朝日新聞の三浦俊章論説委員はこうした歴史に精通している。ただ少し人が悪くて、連載「歴史と向き合う」の中で河野洋平にこうインタビューしている。
 あなたはベトナムのズン首相の訪日の際「先の大戦で日本軍の軍政下においてベトナムに多数の餓死者を出した」と語った。
 日本は前述したように別に軍政を敷いていない。飢餓も自然災害だが、朝日系の反日学者が「日本軍の搾取で二百万人が餓死した」という嘘を流行らせた。
 日本を悪く言えば偉い政治家だと思い込む洋平はそれでこんな愚かな挨拶をした。ズン首相も返す言葉がなくて困っただろう」(引用終了)。

1_1  以上の主張は、ベトナムにおいて日本軍は正義の軍隊であり、ベトナム人も日本軍を歓迎したという印象を一般に与える。河野洋平氏は「戦時中にベトナムに対して日本は悪いことをした」という率直な反省と謝罪の言葉を述べたと私は思う。これに対して高山教授は、朝日系の反日学者の嘘に騙された愚かな挨拶をした政治家と断定している。

2_1 では、高山教授に質問である。①「朝日系の反日学者」とはだれのことか? ②「二百万人が餓死したという嘘」の根拠は何か? ③本当にズン首相が困ったかどうか確認したのか? もし私が河野洋平氏であるなら、以上の質問をして、高山教授に対して厳重に抗議するであろう。さらに言えば、朝日新聞の三浦論説委員に対して高山教授が何を言いたいのかも不明瞭である。

 日本軍のベトナム進駐について、次の2冊の著書が手元にある。吉沢南『ベトナムの日本軍:キムソン村襲撃事件』(岩波ブックレットNO.310、1993年)、早乙女勝元『ベトナム”200万人”餓死の記録』(大月書店、1993年)。

 前者については、それに啓発されて私はキムソン村を2003年に訪問した。写真上は、日本軍の襲撃について語る村人である。写真下は、村の「歴史博物館」に展示された日本軍の襲撃を描いた絵画である。なお、「歴史博物館」と言っても、日本人の感覚で言えば、小さな平屋の村の集会所である。

 高山教授が紹介した落合茂氏のような日本人もいたのだろうが、民族の独立を主張して抗日の立場を明確にする反抗的なベトナム人に対しては、吉沢氏が紹介したような、さらに写真で見るような残虐な弾圧が行われたことも事実である。

 次に、後者の著者・早乙女氏によれば、「200万人の餓死」の問題は正確な事実や経緯が確定していない。すなわち歴史的な事実が正確に検証されるべき問題ということだ。同書の記述を虚心に読めば、日本軍の影響が皆無であり、餓死の原因がすべて自然災害というには無理がある。ベトナム人自身が「人災」と判断している。このような論争的な問題を「嘘」と断言する高山教授には、ぜひ、その根拠を明示してもらいたい。おそらく新しい証言や貴重な資料を入手されているに違いない。

 以上、ベトナムについて一般に知られていないことをよいことに、論争的な問題であるにもかかわらず、一方的な主張を断定的に公表する。これは、少なくとも研究者=大学教授としての立場ではない。このようなことを私がするとすれば、その前に大学に辞表を提出しているだろう。大学教授を辞した後に、評論家として自由に売文すればよいのである。

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コメント

私の知っているベトナム人も親日だし、ベトナム戦争の時に、旧日本軍がベトコン(必ずしも共産党員ではない)と一緒にフランス軍を追い出し、アメリカとも戦ったとの証言者もいます。日本軍が本当に悪ければ、親日のベトナム人はいませんよ。ミャンマーと同じです。ミャンマー人の中には、日本人を尊敬している人達もいますよ。スーチーさんがよい悪いは別にしてイギリスに利用されているのかも。ミャンマーの歴史をのぞいてみると疑いなくもなります。朝日新聞派の学者達とは、早大、慶応、神奈川大の元教授たちでしょう。高山さんの著作が事実かどうか分かりませんが故意に嘘はついていないと思います。実際故意に言論誘導する朝日が酷いのは確かだと私は考えています。河野洋平も愚かだと考えています。産経新聞の批判もよく聞きますが、産経新聞が教えてくれないと何処の新聞が教えてくれるのでしょうか。朝日だけよんでそれだけ信じる方がよっぽど危険だと思います。民主党が良い例です。

投稿: KM | 2011年8月12日 (金) 23時08分

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