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2006年11月 8日 (水)

大正製薬株式会社の独自戦略:医薬品業界の展望

 先週11月1日(水)、大正製薬株式会社・人事部長・渡邊哲氏を特別講師として「21世紀の業界展望(B)」の講義があった。この報告が遅くなり、学生を含めて関係者の皆さまPict0006にお詫びを申し上げる。

 大正製薬は、ベトナムのニャチャンで「リポビタンD」を製造・販売している。渡邊さんもベトナム工場を訪問されたことがあるそうである。ベトナムとなると、いろいろ話題が弾まないはずがない。 かつてはニャチャン空港があり、市内まで数十分であった。それが今ではカムラン空港に到着空港が変更された。同空港から自動車で市内まで約1時間という距離である。ニャチャンは海岸リゾート地で有名だが、なぜ大正製薬が同地に立地することになったのか? ぜひ現地を訪問して、お話を伺ってみたい。

 なお、多くのベトナム人男性は「リポビタンD」のようなスタミナ=ドリンクを愛用している。空港の売店で販売されている「ヘビ酒」などは、伝統的なスタミナ飲料だ。ただし「ヘビ酒」を飲んでお腹を壊したという話も聞いているので、買って飲むにはかなり決断と勇気が必要だ。ベトナムでは女性を含めて健康志向が強まっている。これは日本もベトナムも共通した世界的な傾向であるのかもしれない。また、台湾も同様であるが、ベトナムでも日本の医薬品人気がある。このような意味で、日本の医薬品企業にとってベトナムは有望な市場と考えられる。以上は、講義前後のお話をうかがっての私見である。

 さて、渡邊さんは、医薬品業界の現状と動向と自社の経営戦略とをバランス良く講義された。医薬品メーカーの活動領域は、次のような健康から治療までの領域を包括的に支援することである。 (健康) 予防←←←軽医療→→→治療 (病気) その中でも特に最近は、セルフメディケーション(自分の健康は自分で管理する)が強調される傾向がある。その背景は、財政赤字が深刻になり、医療制度改革が進行中ということである。つまり医療費の患者負担が増加しているために、自分の健康は自己責任で守らざるをえないのである。

 2004年度の日本の医薬品市場の規模は6兆5253億円であり、医療用医薬品(PD:Presecription Drug)が89.5%、一般用医薬品(OTC:Over the Counter)が10.5%となっている。また世界での市場規模は61兆円であり、米国44.1%、日本10.9%、ドイツ5.5%、フランス5.3%、イギリス3.7%、イタリア3.4%、カナダ2.1%となっている。なお日本の薬事法では、PDを不特定多数に宣伝できないことになっている。

 新薬発売までのプロセスは驚きである。新薬1品を発売するためには、物質の発見から特許出願、動物実験から人体治験、承認申請と審査、そして製品発売までのプロセスがあり、その期間は9年から17年。発売までに至る確率は、11,299分の1。さらに発売しても、必ず売れる保証はない。これらが、新薬1品の開発コストを200億円にまで高める。この高コストが、業界の集約化を進める要因となっている。

 医薬品業界の経営環境は大きく変化している。少子高齢化によって医療人口は上昇、労働人口は減少、政府税収は減少、そして先述のように医療制度改革は必至。さらに規制緩和、巨大欧米企業の日本参入。これらの環境変化は、高齢者医療品の需要拡大、ジェネリック医薬品の浸透、セルフメディケーションの意識向上、薬価の下落、食品業界の参入などをもたらす。これは、日本の医薬品企業の競争激化を意味し、差別化・特化・統合化を促進する。

 すでに第一製薬と三共製薬(⇒第一三共)、藤沢製薬と山之内製薬(⇒アステラス)、大日本製薬と住友製薬(⇒大日本住友)などが経営統合している。このような業界再編成の中で、大正製薬は大衆薬で19%の市場占有率をもち第1位である。たとえば前述の「リポビタンD」は59%、風邪薬「パブロンS」は28%。大正製薬は、多くの製薬会社が医療用医薬品に資源集中する戦略を採用する中で、この業界トップの一般用医薬品でトップを維持・拡大することを意図している。

 医薬品業界における営業職は、大別してMR(医薬情報担当者)とSR(販売担当者)になる。MRのためにはMR試験合格が必要だが、合格率の平均は75%、大正製薬は94%である。私見では、医薬品業界の営業はMRと考えてしまうが、大衆薬での市場拡大を考える大正製薬にとっては、SRも重要な仕事とみなされる。

 最後に、人事部長として渡邊さんは「就社」でなく「就職」してほしいと強調された。専門性を高めることで、自己実現ができる。それが同時に企業業績にも貢献する。つまり、企業と社員が相互に生かし合う。企業はつぶれても、自分はつぶれない。専門性・能力・スキルを積み重ねて高める。自分の職業人生を考えて、会社を選ぶことが重要。

 これらのメッセージは、社員にプロ意識をもってほしいという渡邊さんの願いである。会社に依存する社員ではなく、積極的に自分から仕事をする社員が求められる。確かに私見では、「寄らば大樹の陰」という社会的な慣行は、次第に日本で通用しなくなっている。「大樹」の中身が空洞であったり、その「根」が腐敗したりする。それと同時に、その粉飾や糊塗が許されなくなっている。自らがプロとして頑張る。厳しいが楽しい時代の到来と言えるのかもしれない。

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