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2006年11月 1日 (水)

ベトナム日系企業で発生した労働争議の実態:大先輩・川嶋修三さんの論文から

 先日、ベトナムビジネスの大先輩である川嶋修三さんから、ベトナムの労使問題について玉稿をご恵送賜った。これは、ホーチミン市日本商工会が主催するセミナーで9月初めにご講演された内容の追加資料である。

 川嶋さんは、ベトナム富士通コンピュータプロダクツ元社長であり、現在は、、富士通ゼネラル・タイ/上海エアコン製造担当顧問、ドンナイ省投資促進専門家、BTDJapan(商業省直轄・日越貿易投資促進局日本支部)顧問。

 今年のテト後にホーチミン市の富士通やマブチモーターなどの日系企業でストライキが発生したことは、拙著でも紹介した。私は間接的な情報に基づいて、これらは「山猫スト」であり、大きな騒動ではないと指摘した。しかし川嶋さんの説明によれば、かなり大規模な争議であった。以下、その事実を川嶋さんの論文から引用してみよう。

 川嶋さんご自身が体験されたストライキは次のような状況であった。(以下引用開始)
(1) 突然の、組合無視でのヤマネコスト
 スト賛成派の割合は不明だが、大多数が参加。リーダーグループは存在したが、彼らがすべてを仕組んだとは思えなく、あれだけ大規模なものがどのように組織されたのか、結局不明に終わっている。
(2)赤旗が乱立するでもなく、外部団体による過激なアジテーションはなし
(3)破壊行為はなし
(4)行政による調停作業は決め手を欠いて長引いた
(5)警察配備されるも、強制排除はなし
(6)妥結後は速やかに職場に復帰、(嘘のように)平常の勤務状態になる

 総合的に見て、網の目の連絡網が存在し、一定の規律の下に行われた印象が強い。このストライキは、「ドンナイ省の日系企業に集中発生した」と言う話が行き渡っているが、筆者のヒアリングでは正しくはない。また、大多数の日系企業でストが起きたような印象で報道されたり、フイリッピン、タイ、中国のような過激なストがベトナムに蔓延したと思っている人たちが多いが、そのような事実はない。これらは「風評」である。

 公的機関は、実態を整理して、正確に事実を公表すべきである。未だストに見舞われていない大多数の企業の事前対策に役立たせると共に、われわれの顧客の警戒感をも和らげてもらいたい。

 伝えられるような中国などの状況とは異なり、警察権による強制排除はなかった。企業側の期待は裏切られた。排除しなかったのは、大規模なストであったので、沈静化するまで手を出さないほうが良いと判断したのか、または、われわれが知らない色々な情報や過去の経験を持っていて、強制排除しないほうが良いと判断したのかもしれない。

 また、権力による強制排除は、人権団体や西欧マスコミの格好のターゲットになりうるし(未だに反ベトナム団体もある)、人民の味方をスローガンにする政府としては、外国企業側に立っているというような印象を与えてたくないという政治的な思惑があったとも想像される。そして、労働者側に同情的であったかもしれない。

 通常、大掛かりな破壊行為に至るような「国家騒乱」の可能性があれば、中央政府が管轄する軍隊が派遣される。今回のストライキではSP(国家治安警察?)が派遣されていた模様だが、軍隊の出動には至っていない。リーダーと言われるグループの事情聴収は行われていて、その背景も調べられたと聞いている。

 今回はヤマネコストとは言うものの、一部を除いて過激には至らず、一定の秩序が保たれていた点では、地元警察の存在は効果があったと思われる。しかし企業側の期待と行政側の行動には開きがあることは明らかで、警察権の行使は今後の課題として残った。

 人民委員会が乗り出して、まず職場復帰を呼びかけたが、効き目はなかった。調停作業は三者が同じテーブルで話し合うのではなく、個別に行われたので、企業側からクレームがあがっている。われわれが常識としている「公平な調停」に向けて、現在の法律の再検討と、公平な調停委員会の構築、および交渉はテーブルから始まるという労働者への「啓蒙」が、今後の課題である。(以上引用終了)

 川嶋さんの論文は、ストライキの背景の分析から始まり、ご自身の提言を含めてA4で30ページを超える。大学に籍を置く者でも、なかなか執筆は困難な分量である。それほどに、ご自身のご経験を広くベトナム後続者に伝えたいという情熱を感じさせる。

 この観点から、同論文は、もちろんご本人の了承を得ているが、広く公刊される方法を考えたいと思う。今回紹介したストライキについての私見については後に述べる。

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