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2006年6月 3日 (土)

ダイエー故・中内功氏を再見:山崎努主演TVドラマ『価格破壊』再放送始まる

 城山三郎『価格破壊』は、ダイエー創業者・故・中内功をモデルにした小説である。その小説に基づいた連載TV番組が、1981年にNHKで放映された。主演は山崎努。それに音楽は加古隆である。

 流通科学大学に勤務して以来、創設者・中内功氏と距離が近づいたこともあり、その再放送を期待していたのだが、数日前からケーブルTV(ホームドラマチャンネル256)で放映が始まった。その解説は次の通りである(『J:COM Magazine 北摂』2006年6月号、p.73)。

 「日本におけるスーパーマーケットの先駆けとなったダイエーの創業者・中内功をモデルにした城山三郎原作のビジネスドラマ。薬店・矢口商店のあるじ、矢口(山崎努)は消費者のために商品を安い値段で提供するための経営戦略を打ち立てた。結果、売り上げは急上昇、店は日本初のスーパーマーケットとなった。」

 全3回連続で1週間に繰り返し放映される。その時間は、火曜日:22:50~、木曜日:13:00~、金曜日:3:50~、土曜日:18:00~、日曜日:23:50~である。今から第1回目を見ようと思えば、6月4日(日曜日)23:50~、6月6日(火曜日)22:50~である。

 ダイエーはアローという名前に代わっているし、舞台は東京に設定されている。しかし「自分の店で売る値段を自分が決めてこそ商人である」というセリフは、山崎努が何度も繰り返し、その気迫は本物の故・中内氏に通じるものがある。

 松尾嘉代は奥さんの役である。故・中内氏の奥様とはラオス旅行でご一緒したが、ほとんど話す機会がないほどに物静かで温和な方であった。ドラマの中で松尾は夫を常に支援する強い妻であり、家庭を守る優しい母である。このような女性像は中内夫人に限らず、一般的であったように思われる。夫は仕事に打ち込み「企業戦士」となり、妻は「銃後」の家庭を守る。日本の高度経済成長の大きな胎動が始まろうとする時代、だれもが仕事に熱中した頃が想起される。私は、そういった父母を確かに見て育った。

 このドラマ(小説)の表題となっている『価格破壊』は、既存のメーカー中心の価格体系を破壊するという意味である。より一般的に言えば、既存の秩序や体制を破壊・改革することである。このような行為には、当然のように既得権をもっている人々からの強い抵抗や反発がある。それは次から次の「嫌がらせ」としてドラマでも紹介されている。このような状況に直面して、普通の人間なら精神的に参ってしまうのだろうが、山崎努の熱演で示されるように、ますますギラギラした闘争心を中内氏は燃やす。その原動力は、死線をさまよった戦争体験であると説明されている。言葉は悪いが確かに、一度死んだも同然の人間に怖いモノはない。

 どのような抵抗や妨害にも負けない気力の源泉は、上記のような個人体験に基づく精神力の強さだけでなく、社会進歩に即した経営理念を掲げているという信念から生まれてくると思われる。つまり故・中内氏がやろうとした「価格破壊」には社会的な「正当性」があった。だからこそ多数の消費者は中内氏やダイエーを支持した。「自分で売るモノの価格は自分で決める」という今日では当たり前の「オープン価格」が、その当時は異常であった。メーカーが定価を決定し、値崩れしないように安売りをメーカーが規制していた。これは当時でも独占禁止法違反であったが、メーカー⇒卸売り⇒メーカー系列小売店⇒消費者という既存の価格秩序を守るために小売り価格までメーカーが暗黙・非公式に統制していた。これは当然、消費者に対して高い販売価格を強いることを意味する。

 このドラマを見れば、何か新しい事業や改革を実行するためには、それを遂行する気力・信念・正当性・忍耐力・闘争心・非情・情熱・同志が必要であることが痛感できる。これは今日の「ベンチャー起業家」にも共通して必要な気質であるとみなされる。

 中内功を創設者とする流通科学大学の学生・卒業生・父兄・受験生にとって、これは必見のドラマである。晩年の中内氏からは、このドラマのようなギラギラした情熱を直接に感じることはなかったが、時たま見せる表情や口調にそれを感じないことはなかった。

 現代の改革者として評価されていたライブドアの堀江貴文氏、そして村上ファンドの村上世彰氏。改革者として登場したからには、抵抗や妨害の存在は当然に覚悟の上であろう。さらに彼らに気力や忍耐力があることも確実であろう。しかしながら、彼らの仕事に社会的な正当性はあるのか? 改革のための社会的な正当性がなければ、国民の支持を獲得できない。「利益を追求して何が悪い」といった利己的な正当性ではなく、社会的な正当性が広く国民に認められなければ、その改革は成就しないであろう。ダイエー故・中内氏が始めた「価格破壊」が今日までに達成されたことは、そのことをわれわれに教えてくれる。

 なお価格破壊が達成後に、それを支持してきた消費者からダイエーの商品が支持されなくなった。このように考えれば、流通業界において改革を推進する本当の主役は顧客・消費者とみなされる。企業は常に改革を進めなければ、顧客・消費者から見放されてしまう。あらゆる改革に挑戦することこそ企業経営の本質であり、その醍醐味であると私は思う。

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