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2006年5月 5日 (金)

それほどベトナムの汚職は深刻か?

 先日に終了した第10回ベトナム共産党大会において、汚職の克服・防止が強調された。これ以上の汚職の蔓延は、国民の共産党不審を招き、政権が不安定化すると懸念されたからである。しかし、ほかの国々に比較して、それほどまでにベトナムの汚職は深刻なのであろうか。

 東アジア7カ国に関する2005年夏のICS(Investment Climate Survey:投資環境調査)によれば、「汚職はビジネスの制約になりますか?」という質問に対して、「いいえ」・「少々」・「深刻または多大」という選択肢3つで回答された結果は、次のように集計される。

 「いいえ」:①マレーシア(53.8%)、②ベトナム(52.3%)、③タイ(49.7%)、④フィリピン(40.6%)、⑤インドネシア(29.3%)、⑥中国(24.1%)、⑦カンボジア(4.7%)。

 「少々」:①中国(48.5%)、②カンボジア(39.4%)、③タイ(32.1%)、④マレーシア(31.7%)、⑤インドネシア(29.2%)、⑥フィリピン(24.3%)、⑦ベトナム(17.8%)

 「深刻または多大」:①カンボジア(55.9%)、②インドネシア(41.5%)、③フィリピン(35.2%)、④中国(27.3%)、⑤タイ(18.3%)、⑥マレーシア(14.5%)、⑦ベトナム(14.2%)

 以上の結果を見れば、マレーシアと並ぶほどにベトナムの汚職の程度は小さい。これに対してカンボジアの汚職は極めて深刻であることを示している。ただし、この調査結果には次の注釈がつく。 

 1.ベトナムでは汚職が当然とみなされているために、この調査に回答した経営者がビジネスの制約と考えていない可能性がある。つまり汚職はビジネスに「織り込み済み」である。ただし、これは他国の場合も同様である。「汚職がビジネスの制約になる」という経営者の認識の程度は、国によって様々である。

 2.実際、ベトナムにおける賄賂や贈り物の平均支払金額は、各1件当たり次のように推定されている。関税当局(360万ドン=約225ドル:1ドル=16,000ドン)、税務署(340万ドン)、公安当局(190万ドン)、市場管理当局(190万ドン)、環境当局(140万ドン)、事業登録認可当局(120万ドン)。そのほかの人民委員会、労働社会保険当局、火災・建設安全・建築検査当局には平均100万ドン未満である。

 3.しかしながら、多くの回答者は賄賂を贈っていないと明言しており、贈ったとしても平均の賄賂金額は180万ドンである。これらの賄賂の支払いは年に数回に渡るが、ベトナムにおいて企業が支払う賄賂金額は他国に比べて多額とは言えない。

 上記の数値と記述は、2005年12月6日~7日にハノイで開催された「ベトナム諮問グループ合同支援報告会議」(Joint Donor Report to the Vietnam Consultative Group Meeting)において発表された『ベトナム発展報告2006:ビジネス』(Vietnam Development Report 2006: Business)(pp.47~49)に依拠している。

 ベトナムの汚職・贈収賄は、以上のように日常的に行われているが、どちらかと言えば些少である。ただし「日常的」ということについて、一般国民の間で不満が高まっていることも事実であろう。汚職追放といった精神論的なスローガンではなく、公務員給与の引き上げなどの具体的な対策が抜本的な改善のためには強く望まれる。

 私見では、これから進出する日系企業は、以上のような汚職が普通と考えておくべきである。ただし、これは汚職というのではなく、お世話になったお礼の意味を込めたお中元・お歳暮と考えるべきである。金額もその程度の感覚である。財政逼迫のベトナム政府に代わって受益者が公務員に支払う「給与補填」と考えてもよい。

 このような「贈賄」を絶対しないという日本企業は、日本では当たり前に多数存在するが、そういった企業のベトナムでの活動は円滑に進行しているのであろうか。ベトナムでは「町内会の会費を払わない住民」ような存在にならないのだろうか。政府が汚職禁止を言っているのだから、そういった企業が非難されることはないが、人間関係は良好であるはずがないと想像される。

 ほかのアジア諸国に比較して、ベトナムの汚職は総じて軽微である。そのように考えれば、次は「郷に入っては郷に従え」ということになる。もちろん「お中元」・「お歳暮」の範囲を超える要求の場合、断固として拒否する毅然とした態度も必要となるだろう。ベトナム人当局側も図に乗ってはいけない。このような硬軟を併せもった柔軟な姿勢が一般に国際ビジネスでは求められるのではないか。 

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コメント

はじめまして、ベトナムのサイゴン都市からのVUと申します。
京都大学の修士2年生です。
日本とベトナムの建設プロジェクトのコスト変動要因に関する比較研究という研究テーマです。
研究内容の中であるところではコスト変動要因の賄賂/腐敗という考えである。
今回の"ベトナムの汚職は深刻か?"の記事をご覧いただきいてご感情しました。素晴らしい以上の記事だと思います。
この記事を読んだ後で、ベトナムの賄賂問題をよく理解できた。本当にありがとうございます。

 - Nguyen Le Vu -

投稿: NGUYEN LE VU | 2010年10月 8日 (金) 03時29分

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