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2006年1月18日 (水)

WTO貿易体制:10の利点

 ベトナムは本年度内のWTO(世界貿易機構)加盟をめざしている。隣国カンボジアが2004年9月に加盟承認され、それについてベトナム人の知人は「カンボジアは失うものがないから」とコメントする。しかし政治的な地位から見れば、ベトナムはカンボジアに一歩先を越されたという印象は免れることはできない。

 WTO加盟に伴う利点について、ベトナムでも広報が進んでいる。たとえば次のようなベトナム語と英語の小冊子が一般書店でも販売されている。「WTO貿易体制:10の利点」(10 benefits of the WTO trading system, Nha xuat ban The Dioi, Ha Noi, 2001.)。 筆者の印象では、ベトナム企業経営者はWTOについて概要を知っているが、多数の一般国民は言葉だけ知っており、その内容については理解していないと思われる。これは、日本でも同様の状況かもしれない。

 そこで以下では、同書の内容を要約して紹介する。WTOにおける交渉は日本にとっても無関係ではない。特に農産物の自由化について日本に根強い反対がある。これは韓国でも同様である。このような問題を考える場合、そもそもWTOとは何かという原点に立ち戻った議論が必要であると思われる。この意味で、以下の10の利点をベトナムのみならず日本でも再認識・再検討されてもよい。

 (1)平和を維持する:WTO体制は国際的な信頼と協力を創造・補強する。いわゆる貿易摩擦や経済摩擦さらに保護主義は、かつては世界大戦の原因となっていた。これに対してWTOは、こういった貿易問題を建設的で公平な議論の中で解決する。ある国の保護主義は、長期的には他国からの報復を招き、全体として経済問題が深刻化し、だれもが損する。勝者のいないシナリオを避けるためには国家間の信頼と協力が必要とされる。

 (2)紛争は建設的に処理される:より多くの貿易は、より多くの紛争を生み出す。この紛争はWTO協定と規則に基づいて解決される。このことは、紛争の勝敗について明確な判断基準があることを意味する。

 (3)権力よりも規則に基づいた体制は加盟国すべてに好都合である:WTOの協定は全加盟国の交渉と合意に基づく。富裕国も貧困国も、WTOの紛争解決手順に従って提訴する同等の権利をもつ。小国は、大国からの圧力を受けないので交渉力が増大し、大国は、ほとんどすべての貿易相手国とWTOという同じ協議の場で同時に交渉できるので手間が省ける。WTO協定に含まれた無差別の原則は複雑性を排除し、全加盟国に適応される単一の規則は、世界の貿易体制を簡素にする。

 (4)より自由な貿易は生活コストを削減する:生産に利用される輸入品が安くなるので、生産コストが削減され、最終財やサービスの価格が下落し、生活コストが減少する。具体的には食料品やアパレル・縫製品の価格は下落する。貿易障壁が低くなれば、さらに自動車や電話サービス・携帯電話などの価格も安くなる。ただし農業政策は当面の課題であり、食料安全保障から環境保護まで広い範囲で議論されている。

 (5)輸入品は消費者の選択の幅を拡大する:輸入品によって国内の市場競争が促進され、国産品の品質が改善される。国内生産の原材料・部品・設備として輸入品が使用されると、国内における最終製品やサービスさらに技術の幅が広がる。

 (6)貿易は所得を増加させる:貿易障壁が低くなれば、貿易が増大して国民所得と個人所得が上昇する。ただし政府は、たとえば既存の生産活動における生産性や競争力を向上させたり、新しい活動に転業したりしようとする企業や労働者を支援するために、上記の増加所得を再配分しなければならない。

 (7)貿易は経済成長を促進し、雇用を増加させうる:ただし雇用については次の2点が問題である。第1に、技術進歩が雇用と生産性に強い影響を及ぼす。第2に、貿易による輸入品との競争のために、必ずしも新規雇用を生まない。ただし、より効果的な調整政策を採用した国は雇用が拡大する。EUや米国の実例では、貿易関係会社で雇用が増加している。なお保護主義は雇用喪失をもたらす。たとえば米国における国内自動車産業の保護政策は、日本車の輸入を制限し、米国における自動車価格を上昇させた。これが自動車の売り上げ減少をもたらし、米国の雇用喪失を生んだ。つまり短期的な問題解決(=保護主義)は、長期的にはより大きな問題(=経済衰退・雇用喪失)を発生させる。

 (8)基本原則は貿易体制を経済的に効率化してコストを削減する:いろいろな関税率や規則をもった別々の国内市場よりも、世界が統一市場であった方が、経済効率性の向上やコストの削減に貢献する。その基本原則は、①無差別、②透明性、③貿易条件の確実性増大、④関税手続きの簡素化と標準化である。

 (9)偏狭な利益集団の政治的圧力から政府を庇護する:輸入制限は、ある経済分野を支援する効果的な方法のように思えるが、それは経済全体の均衡を歪める。たとえば縫製業だけを保護すれば、衣料品価格が高くなり、それは全産業における賃金を圧迫する。

 (10)よい政府を後押しする:WTO協定が政府に対する好ましい規律となり、恣意的な政策決定を生み出す汚職やロビー活動を減少させる。

 以上で注目すべきことは、まず(6)が政府の役割を強調していることである。WTO加盟が野放図な市場経済の容認を意味しないことを示している。次に(1)で指摘されているように、WTOは信頼と協力で成立していることに留意するべきである。たとえば日本において、国内農産物の保護は食料安全保障の観点から必要だという主張がある。この背景には、輸入農産物の安定的な供給量・品質・安全性に対する不信感がある。

 しかし日本人農家が、たとえばベトナム人農家に生産の技術指導をしたり、ベトナム人農家を研修生として日本に受け入れたりすることで、上記の不信感は払拭されると思われる。農業分野における国際協力や国際交流を通して、WTOに対する農家の信頼感が形成される可能性があると思う。これについて、より一層に検討されてもよい。

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